税制適格ストックオプションとは?認められる要件と主なメリット
「税制適格ストックオプションはどういった制度なのか」
「税制適格ストックオプションを導入するとどんなメリットがあるのか」
経営者の中には、税制適格ストックオプションを導入すべきかどうか悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
本記事では、税制適格ストックオプションの概要をはじめ、税制適格ストックオプションのメリットや導入すべき企業の特徴等についてご紹介します。
税制適格ストックオプションについて詳しく調べている方は参考にしてみてください。
目次
1.税制適格ストックオプションとは
ストックオプションとは、株式会社の取締役や従業員が自社の株式を定められた価格で取得できる権利のことです。
そして、租税特別措置法により税制の優遇を受けられるようになっているものが、税制適格ストックオプションと呼ばれています。
具体的には、ストックオプションの中で租税特別措置法の第29条の2の要件を満たしているものです。
税制適格ストックオプションは、ストックオプションの中でも積極的に使われることが多く、インセンティブの一つとして活用される傾向があります。
2.税制適格ストックオプションの7つの要件
税制適格ストックオプションとして認められるには、7つの要件を満たす必要があります。
租税特別措置法第29条の2に記されている要件は以下のとおりです。
- 無償ストックオプションであること
- 付与対象者が会社およびその子会社の取締役・執行役・使用人であること
- 権利行使期間内に行使されていること
- 権利行使価格が一定以上であること
- 第三者に譲渡されていないこと
- 年間の権利行使価額が一定以下であること
- 取得した株式の保管先を決めていること
これらの1つでも要件を満たしていなければ、税制適格ストックオプションとして認められないので注意しましょう。
(1)無償ストックオプションであること
税制適格ストックオプションは、無償である必要があります。
ストックオプションはじめ新株予約権の会計処理では、予約権自体の発行のタイミングと、予約権の権利行使を行うタイミングの2回で企業は払込を受けることとなります。
無償ストックオプションでは予約権自体の発行(対象者が受け取る)のタイミングでは、企業から対象者に無償で予約権を付与することが求められます。
一方、予約権の発行のタイミングで対象者から企業に対して金銭の払い込みを受けるストックオプションのことを、有償ストックオプションと呼びます。
詳細は以下の記事で解説しておりますので合わせてご覧ください。
(2)付与対象者が会社およびその子会社の取締役・執行役・使用人であること
租税特別措置法第29条の2の第1項では、付与対象者は会社およびその子会社の取締役や執行役、使用人でなければならないと記されています。
そのため、監査役には、税制適格ストックオプションを適用することはできません。
また、自社株の1/3以上を保有している大口株主やその親族、配偶者も対象外とされています。
なお、社外の人材でも、専門的な知識や技術を持った高度人材には、税制適格ストックオプションを適用することができます。
対象者の範囲が指定されていることに注意しましょう。
(3)権利行使期間内に行使されていること
権利行使期間内に行使されていることも求められます。
ストックオプションの付与決定の確定後の2年から10年経過するまでの間に、税制適格ストックオプションを行使しなければなりません。
つまり、株式付与の決定から10年経過するまでの間に権利行使し、自社株を購入する必要があります。
(4)権利行使価格が一定以上であること
権利行使価格が一定の価格以上に設定されていなければなりません。
新株予約権における契約の際には、契約時の時価以上の価額に設定する必要があります。
仮に時価より安い価格で株式を付与した場合、株式を取得した時点ですでに取得者に利益が発生していることになります。
その場合は税制適格ストックオプションの要件を満たさなくなってしまうため、課税が他のストックオプションと同様に発生することになりますのでご注意ください。
(5)第三者に譲渡されていないこと
ストックオプションは第三者に譲渡することは可能ですが、税制適格ストックオプションは、租税特別措置法で他者に譲渡することは禁止されています。
ここでいう譲渡とは、売買を経ずに株式の権利を譲ることです。
税制適格ストックオプションは、権利取得者のみしか行使できないことを押さえておきましょう。
(6)年間の権利行使価額が一定以下であること
権利行使価額が時価以上でなければなりませんが、年間の権利行使価額が合計1,200万円以下であることも要件に含まれます。
つまり、1年間で取得できる自社株は1,200万円以下に抑えなければならないということです。
年間の権利行使価額が1,200万円を超えた場合は、税制適格ストックオプションの適用外となります。
なお、わずかでも超えた場合は、全体の金額に課税されることになるので注意が必要です。
上限から超えた分だけ課税されるわけではありませんので、気を付けましょう。
(7)取得した株式の保管先を決めていること
権利行使で取得した株式の保管先を決めておく必要があります。
たとえば、特定の証券会社に指定するなど、予め準備しておかなければなりません。
3.税制適格ストックオプションの2つのメリット
税制適格ストックオプションを導入することでさまざまなメリットがあります。
その中でも特に重要な特徴は以下の2点です。
- 税金が発生しづらい
- 税率が低い
税制適格ストックオプションを導入することで、どのようなメリットを受けることができるのかチェックしてみましょう。
(1)税金が発生しづらい
税制適格ストックオプションは、税金が発生しづらい点が大きな魅力です。
一般的に課税されるストックオプションは、権利行使時と譲渡・売却時の2回課税されます。
一方で、税制適格ストックオプションは、株式の譲渡時のみ課税されるのです。
そのため、課税されるタイミングが1回に抑えられるので、インセンティブの効果が高まります。
株式譲渡時の税金の計算式は以下のとおりです。
『(株式の売却価格 ― 権利行使価格⦅購入時の価格⦆) × 売却株数 ― 手数料』
(2)税率が低い
課税回数が少ないだけでなく、税率が低い点もメリットです。
税制適格ストックオプションは、株式を問わず、売却時に約20%の税率が一律で計算されます。
他のストックオプションの場合は、取得時に最大55%の税率が発生(所得税による累進課税)し、売却時にさらに20%の税率が発生するので、税制適格ストックオプションがいかに税率が低いかがわかるでしょう。
4.税制適格ストックオプションのデメリット
税制適格ストックオプションにはデメリットもあります。
特に抑えておくべきポイントは以下の3点です。
- 利用要件が厳しい
- 社員に軋轢が生まれる
- 必ずしもモチベーションに繋がるわけではない
メリットの半面、いくつかの課題をクリアする必要があることを押さえておきましょう。
(1)利用要件が厳しい
税制適格ストックオプションは、利用するための要件が厳しくなっています。
先ほど紹介した7つの要件を満たして初めて認められるので、簡単に利用できるわけではありません。
万が一、利用要件を満たしていないと判断されれば、最大で55%の累進課税が課されるので、利用時には注意しましょう。
(2)社員に軋轢が生まれる
税制適格ストックオプションの対象者は大きな恩恵を受けることができますが、対象外の社員もいるため、どうしても社内の人間関係に軋轢が生まれる可能性があります。
要件を満たした社員のみが対象となるため、税制適格ストックオプションを利用したくても利用できない社員が発生することもあるでしょう。
対象者とそれ以外の社員間で、仕事に対する温度差が出てしまいがちなので、対象外の方に対して組織設計をしっかり考えることが大切です。
(3)必ずしもモチベーションに繋がるわけではない
ストックオプションは、インセンティブとして活用されていますが、必ずしも社員のモチベーションに繋がるわけではありません。
仮に税制適格ストックオプションによって自社株を取得することができても、必ず利益が生まれるわけではなく、逆に損をすることもありえます。
発行比率を考えても、ストックオプションに興味があるのは一部の経営層なので、すべての従業員にとって恩恵があるとは一概に言えません。
そのため、税制適格ストックオプションがあったとしても、社員の満足度が改善できるわけではない点は押さえておきましょう。
5.税制適格ストックオプションを導入すべき企業
税制適格ストックオプションを導入すべき企業について紹介します。
おすすめは、将来的に株式上場を目指す企業です。
ストックオプションは上場後、株価が上昇して初めて恩恵が受けられるため、上場を視野に入れた企業の従業員にとってメリットが大きい制度です。
そのため、株価の上昇が期待できる企業は、ストックオプションの恩恵を最大限に受けることができるため、利益が出やすく、社員のモチベーションアップにも効果が期待できるでしょう。
6.税制適格ストックオプションの導入方法
税制適格ストックオプションの導入方法について紹介します。
主な流れは以下のとおりです。
- 募集事項の決定と通知
- 総額引受方式による手続
- 新株予約権原簿の作成と新株予約権の登記
導入を検討している方は、参考にしてみてください。
(1)募集事項の決定と通知
まず、ストックオプションを導入するために、新株予約権の募集時効を決定しなければなりません。
必要な募集事項は、会社法第238条1項に以下のような内容が記されています。
- 新株予約権の内容と数量
- 金銭の払込みの有無(無償発行かどうか)
- 払込金額と算定方法(有償発行の場合)
- 募集新株予約権の割当日
- 払込期日(有償発行の場合)
ちなみに、公開会社と非公開会社では、以下のように募集事項の決定機関が異なります。
- 公開会社:取締役会の決議
- 非公開会社:株主総会の特別決議
非公開会社の場合は、株主の賛同を得なければならないため、各ステークホルダーとの調整が大切です。
募集事項が決定したら、その旨を社員に対して通知します。
(2)総額引受方式を活用した手続
新株予約権の申込があったら、総額引受方式を活用した手続きによって割当を行います。
総額引受方式とは、新株式の取得者が定まっている場合に、募集新株発行手続の一部を省略して行える方法のことです。
応募者の中から税制適格ストックオプションの要件を満たしている人を特定できれば、簡単に株式発行ができるようになっています。
最短でわずか1日で株式の発行ができるので、大きな手間なく手続きを実施することが可能です。
(3)新株予約権原簿の作成と新株予約権の登記
ストックオプションの発行後は、新株予約権原簿を遅滞なく作成しなければなりません。
また、ストックオプションの割当日から2週間以内に、新株予約権の登記をする必要があります。
期限にゆとりがないので、なるべく早めに取り掛かりましょう。
まとめ
税制適格ストックオプションは、メリットが大きい一方で、要件が厳しいといった面もあります。
活用方法次第で、会社にとってプラスに働く可能性があるので、将来株式上場を目指している企業などにおすすめです。
導入までに時間がかかるため、スケジュールに余裕を持って、少しずつ準備を進めていきましょう。