株価算定とは?株価算定の方法や主な流れについて徹底解説
「株価算定って具体的に何をするのか」
「株価算定はどうやって行うのか」
M&Aや増資を検討している方の中には、株価算定について詳しく調べている方もいるのではないでしょうか。
本記事では、株価算定の基礎的な情報や目的、方法、考え方等を紹介します。
株価算定について網羅的にまとめているので、最後までチェックしてみてください。
目次
1.株価算定とは
株価算定は、よくM&Aや増資などの場面でよく耳にすることになるでしょう。
ここでは、株価算定の基礎情報について紹介します。
また、企業価値との違いについても押さえておく必要があるので、初めて聞く方や具体的に何をするのか詳しく知らない方は参考にしてみてください。
(1)基礎情報
株価算定とは、株主が有している株式の価値を算定することです。
第三者に対して、株式の価値を提示するときに使われることが多く、M&Aで株式を譲渡するときや第三者割当等で資金調達するとき、損害賠償額を計算するとき、相続のときなど、必要とされる場面がいくつもあります。
上場企業は、株式市場で株価が評価されていますが、非上場企業は株価を評価する基準がありません。
そのため、非上場企業の場合は、さまざまな方法で株価算定をする必要があります。
(2)企業価値との違い
株式価値と混同されやすい言葉に企業価値があります。
企業価値とは、会社が所有している事業及び保有資産のトータルの価値を示しているので、株価算定で出てくる株式価値とは異なるので注意しましょう。
企業価値は資本や負債を合計した総資産と言えるのに対し、株式価値は資本にあたります。
したがって、株式価値は企業価値の一部として認識しておきましょう。
2.株価算定の目的
株価算定は、第三者に対して自社株式の価値を示すために必要です。
株式を購入してもらったり資金調達を受けたりするためには、自社に投資する価値があることを示さなければなりません。
たとえば、第三者割当増資などで資金を調達するときに、第三者に対して自社の株式を購入する価値があると示すことが求められます。
株価算定をして適正な価値を視覚化することで、よりプレゼンしやすくなり、新株取得者が現れやすくなるのです。
第三者割当増資の他にも、M&Aやオーナーチェンジ等で株式の移動があるときにも行われるので、株式会社の経営者は株価算定をする機会が訪れるかもしれません。
今は無関係と思っている方もいずれ株価算定をしなければならないシーンが訪れる可能性があるので、知識として押さえておきましょう。
なお、第三者割当増資を検討している方は、以下の記事で詳しく解説しているので、そちらもあわせてご確認ください。
3.株価算定をするタイミング
株価算定をするタイミングは、いくつかあります。
たとえば、非上場企業は、以下のタイミングで株価算定をすることが多いです。
- 自社株式を買い取るとき
- ストックオプションを発行するとき
- 株式を購入や譲渡するとき
- M&Aを実施するとき
- 資金調達をするとき(ベンチャーキャピタルや外部投資家の出資など)
- 事業承継や相続をするとき
さまざまなケースで行われますが、いずれも株式が大きく動く傾向があります。
また、非上場企業の株式を保有している上場企業が、非上場企業の株価を把握するために行われることもあるでしょう。
株価算定をするタイミングは一つではなく、さまざまな目的に応じて行われることを押さえておくのがポイントです。
4.株価算定の方法
株価算定の具体的な方法について紹介します。
主な方法は以下の3つです。
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
- ネットアセットアプローチ
株価算定方法は一つではないので、一通り確認してみましょう。
なお、以下の記事で各方法のメリット・デメリットについて解説しているので、より詳しく知りたい方はそちらもあわせてご確認ください。
(1)インカムアプローチ
インカムアプローチとは、将来の収入やキャッシュフローに着目して評価する方法です。
未来の話を軸に評価するため、現時点で資産がなくても将来成長が見込める企業であれば、高い評価になりやすくなります。
たとえば、IT企業や非上場企業で将来上場を狙っているベンチャー企業などに適しているでしょう。
インカムアプローチの具体的な方法として以下の3つがあります。
- DCF法
- 収益還元法
- 配当還元法
どのようにして株価を算定するのかチェックしてみましょう。
#1:DCF法
DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法は、事業計画をもとに将来企業が生み出すフリーのキャッシュフローを現在の価値に置き換えて算出する方法です。
フリーキャッシュフローとは、その企業が自由に活用できるお金のことで、以下の計算式で求めることができます。
『フリーキャッシュフロー=営業利益×(1−税率)+減価償却費−運転資本増価額−設備投資額』
最も理論的かつ合理的な株価算定方法といわれているので、特にM&Aやベンチャー企業の株式評価の場面で活用されることが多いです。
ただし、計算式を見るとシンプルのように感じますが、実は割引率など複雑な前提条件の計算もしなければならないため、専門的な知識がなければ困難といえます。
したがって、DCF法を採用する場合は、公認会計士やM&Aアドバイザー等に依頼するようにしましょう。
#2:収益還元法
収益還元法は、評価企業の利益を予想して株価を算定する方法です。
この場合の利益とは、1株あたりの予想税引後純利益のことで、毎年同じ収入と仮定して算出します。
そのため、DCF法に比べると管理的な算定法で、非上場企業でも簡単に株価を評価することが可能です。
しかし、一方で株価算定の精度が落ちる点はデメリットで、適正な株価算定をする方法としては物足りないといえます。
したがって、あくまで目安として自社の株式の価値を把握するのに向いているでしょう。
#3:配当還元法
配当還元法は、将来発生する配当金を基準に計算する方法です。
この方法は、配当を出している企業が採用できるため、配当を出していることが少ない中小企業では、ほとんど使われることはありません。
税務に関する場面でたまに使われますが、M&A等の目的で使われることはあまりないので、DCF法と収益還元法を押さえておけばよいでしょう。
(2)マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、類似業界の相対的なデータに着目して株価を評価する方法です。
たとえば、自社の規模と同等の類似企業のデータを利用することで、客観的に株価を算定できます。
マーケットアプローチの方法は主に以下の4つです。
- 市場株価法
- 類似会社比準法(マルチプル法)
- 類似取引比準法
- 類似業種比準法
客観的な視点で自社の株価を評価したい方は、これらの手法を検討してみましょう。
#1:市場株価法
市場株価法とは、同業界の上場企業の過去数ヶ月(1~3ヶ月)の平均株価をもとに算定する方法です。
平均値を採用しているため、理論的に株価を評価することができます。
市場株価は、不特定多数の利害関係者の意思が反映されているので、最も客観性が高いのが特徴です。
ただし、上場企業を基準に算定するため、同じ上場している企業しか使用できません。
また、市場の影響を直接受けるので、直近で大きく株価が変動した企業の平均株価は参考にならない可能性が高いです。
それでも数ヶ月の平均株価を用いるため、短期的な影響を受けにくい傾向があり、客観性は信頼できます。
上場企業の場合は、基本的には市場株価法が用いられることが多いです。
#2:類似会社比準法(マルチプル法)
類似会社比較法(マルチプル法)は、自社と類似している上場企業をもとに株価を算定する方法です。
具体的には、類似上場企業の株価や売上高、株価収益率(PER)、EBITDA(税引き前当期純利益に特別損益や支払利息、減価償却費を加えた指標)等の倍率を算定して、自社の数値に反映します。
算出した数値が自社株式の価値となるのですが、類似する上場企業が存在しなければ使用できません。
客観的なデータとして活用できるので、類似上場企業がある方は試しに計算してみましょう。
#3:類似取引比準法
類似取引比準法とは、主にM&Aの対象となる企業を評価するときに使われることが多く、過去の類似する取引を基準に評価する方法です。
多数のM&A実績がある業界に向いている手法で、同業界内でベースとなる指標があるときに使われる傾向があります。
ただし、近年M&Aが盛んになっており、全体的に取引額が高額化しているので、適正な評価が難しくなっている点に注意しなければなりません。
公開されているM&Aの事例も少ないので、類似会社比準法に比べると利用されることは少ないでしょう。
#4:類似業種比準法
類似業種比準法は、自社と類似している上場企業の株価をもとに算定する方法です。
ただし、類似業種の株価には、利益や純資産、配当金等が反映されているため、類似しているというだけで単純に評価することはできません。
基本的には相続の場面で利用される方法なので、M&Aやストックオプション発行などで株価算定をする方は特に気にする必要はないでしょう。
(3)ネットアセットアプローチ
ネットアセットアプローチとは、会社の純資産(貸借対照表に記載されている項目)を基準に株価を評価する方法で、コストアプローチとも呼ばれます。
帳簿をもとに評価できるので、他の方法よりも分かりやすい点がメリットで、企業規模に関係なく算出が可能です。
ネットアセットアプローチには、以下の方法があります。
- 簿価純資産法
- 時価純資産価額法
- 再調達原価法
- 清算価値法
何を基準に算出するのか押さえておきましょう。
#1:簿価純資産法
簿価純資産法は、純資産を簿価のまま使用する方法で、貸借対照表に記録されている純資産が株価の価値と捉えています。
純資産を発行済株式総数で割ることで株価を算定することが可能です。
目に見える数字をそのまま活用するため、コストアプローチの中でも特に簡単と言えます。
ただし、帳簿が正しく記入されていなければ、適切な株価を算定することができません。
簿価純資産法を用いる場合は、まずは帳簿が正しく処理されているか確認するようにしましょう。
#2:時価純資産価額法
時価純資産価額法は、純資産を一旦時価換算しなおした上で評価する方法です。
時価換算するので、簿価純資産法よりも正確性は増し、精度の高い評価が実現します。
しかし、無形資産を時価換算するには高度な専門知識が必要なので、専門家に依頼するのが一般的です。
中小企業のM&Aで用いられることがあるため、時価換算する方法があることも頭の片隅に入れておきましょう。
#3:再調達原価法
再調達原価法は、現在所有している資産や負債を、再取得するのに要する費用を用いて算出する方法です。
全く同じ企業を再び設立するのにどのくらいの費用がかかるのかを計算するので、企業価値を具体的にイメージしやすくなります。
そのため、M&Aの実行をするか検討する際に利用されることが多いです。
ただし、あくまで目安の数値なので、適正な株価算定をしたいときは、別の方法を用いましょう。
#4:清算価値法
清算価値法は、正味売却価額を指標として算定する方法で、清算の場面で使われます。
正味売却価額とは、全ての資産を売却し、売却金額から返済義務のある負債を全額引いた残りのことです。
中小企業は、いつ清算の危機が訪れても不思議ではないため、清算価値法があることは知識として持っておきましょう。
5.株価算定の考え方
株価算定には主に3つの方法がありますが、活用の仕方によって算定結果が変わる場合があります。
主に活用方法は以下の3つです。
- 単独法
- 併用法
- 折衷法
どれが正しいとかはなく考え方の違いなので、最も理解できるやり方で株価算定をしてみましょう。
(1)単独法
単独法とは、3つの株価算定の方法のうち、いずれか一つを選んで算出する方法です。
たとえば、事業計画をもとに算定した場合はインカムアプローチ、株式市場の評価を中心に評価したい場合は、マーケットアプローチのように、目的に応じて評価方法を使い分けます。
特定の項目を重視して評価できるため、高評価を出しやすい特徴がありますが、強みが複数ある場合は、適正に株価を評価できないケースもあるでしょう。
そのため、強みが特化した企業には単独法がおすすめです。
(2)併用法
併用法は、複数の手法を使って評価する方法です。
バランスよく評価したいときに有効で、たとえば、インカムアプローチのDCF法とネットアセットアプローチの簿価純資産法を同時に使って総合評価を出すことができます。
単独法に比べると評価が劣る可能性はありますが、トータルポイントを伸ばせることもあるので、幅広く価値を算定したいときに活用しましょう。
(3)折衷法
折衷法とは、3つの算定方法の中から一つを選び、その算定方法に含まれる複数の評価方法を用いて総合評価する方法です。
たとえば、マーケットアプローチで市場株価法と類似会社比準法を行った場合、簿価と時価換算した純資産を比較することができます。
評価を平均化できるため、基本的には算定結果に大きな差異が生じる場合に使われることが多いでしょう。
6.種類株式の評価方法
普通株式とは異なり、権利内容が特殊な種類株式を評価するときは注意が必要です。
種類株式の内容によっては、評価方法が複雑になる場合があります。
たとえば、以下のような内容の種類株式は、特定の方法で評価することになるでしょう。
- 自益権に関する種類株式
- 共益権に関する種類株式
- 株式の取得・転換・譲渡等に関する種類株式
種類株式を発行している会社は、評価方法の選択に注意しましょう。
(1)自益権に関する種類株式
自益権(株主個人の利益にのみ関係する権利)に関する株式の場合は、DCF法もしくは配当還元法が利用されることが多いです。
たとえば、償還株式や配当優先株式などが該当します。
配当優先株式はどちらも利用されますが、償還株式はDCF法を利用されるので覚えておきましょう。
(2)共益権に関する種類株式
共益権(株主全体の利益に影響する権利)に関する株式もDCF法で算定される傾向があります。
たとえば、無議決権株式や拒否権付株式等など、議決権の有無が事前に決められたものが共益権です。
共益権に関する種類株式は、キャッシュフローで評価することができる点を押さえておきましょう。
(3)株式の取得・転換・譲渡等に関する種類株式
株式の取得・転換・譲渡等に関する種類株式も要注意です。
取得請求権付株式や取得条項付株式等は、特殊な評価方法が利用されます。
オプション評価という形で算定されるため、二項モデルや最小二乗モンテカルロ法といった特殊な評価方法が利用されることを覚えておきましょう。
7.株価算定の主な流れ
株価算定の主な流れについて紹介します。
基本的な流れは、以下のとおりです。
- 目的の見当
- 手法の見当
- 必要な書類の収集
- 試算
スムーズに実行できるように、株価算定の流れを把握しておきましょう。
(1)目的の見当
まずは、株価算定の目的を検討しましょう。
株価算定の方法はいくつもあり、目的に応じて使い分ける必要があります。
何のために株価算定をするのか明確になっていなければ、間違った評価をしてしまう可能性が高いです。
たとえば、相続のために株価算定をしたいのにもかかわらず、市場株価法を用いても適切な評価をすることはできません。
同じ株価算定をするにしても、M&Aや事業承継、資金調達などさまざまな目的があるので、必ず先に何の目的で行うのか明らかにしておきましょう。
(2)手法の見当
目的を決めたら、適切な手法を検討しましょう。
まず、単独法、併用法、折衷法のどの考え方で評価するのか決めます。
次に、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、ネットアセットアプローチのどれを採用するのか決めましょう。
たとえば、ベンチャー企業のM&Aを検討する場合は、単独法で類似会社比準法を利用するという感じです。
基本的には、いきなり一つの方法を決めるのではなく、いくつか候補となる手法をピックアップして、その中からより適切な手法を決めます。
わざわざ一つに絞る必要はなく、バランス重視で評価することも増えているので、あらゆる角度から評価する方法を考えましょう。
(3)必要な書類の収集
株価算定方法を決めたら、必要な書類を集めましょう。
必要な書類は算定方法によって異なりますが、基本的には以下の書類が必要です。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- キャッシュフロー計算書
- 設備投資計画
- 事業計画
- 株主名簿
- 類似業種の上場会社資料
- 事業報告書
他にも必要な資料等が必要な場合があるので、算定方法に応じて揃えましょう。
株価算定を専門家に依頼する場合は、書類を揃えるにも時間と手間がかかるため、スケジュールに余裕を持って行動することをおすすめします。
(4)試算
必要な資料が集まったら、決めた方法で株価算定を行います。
人的に計算を行うので、当然計算ミス等も発生する可能性が高いです。
したがって、正確に処理するためには、複数回試算する必要があります。
なお、専門家に株価算定を依頼する場合は、特に何もする必要なありません。
算定結果が出るのを待ちましょう。
8.株価算定で困ったら専門家に任せるのがおすすめ
株価算定は専門的な知識がなければ、スムーズに評価することは困難です。
DCF法など専門家に依頼するのが一般的な方法以外でも、専門家の力を借りることはできます。
特に併用法や折衷法など、複数の算定方法を活用する場合は、時間と手間がかかるので、自社内で行うよりも外注した方が効率が良いです。
自社に専門的知識を有している人材がいなければ、公認会計士などに依頼することを検討してみましょう。
なお、以下の記事で外注先の選び方について詳しく解説しているので、専門家に任せたい方は参考にしてみてください。
まとめ
株価算定は、あらゆる場面で行われています。
特に中小企業の場合は、株式の価値を客観的に示すことができないので、株価算定をしなければなりません。
株価算定をする目的によってベストな算定方法が異なるため、何のために実施するのか明確にした上で、株価算定を行いましょう。
なお、株価算定は専門的な知識が求められるので、自社に株価算定に精通した人材がいなければ、専門家に依頼するのが無難です。
効率よく株価算定をしたい方は、前向きに外注することを検討してみましょう。