「未上場企業に適した方法で資本金を増やしたい」
「第三者割当増資はどんな場合に利用できるか知りたい」
そうお悩みではないでしょうか。
第三者割当増資は上場してなくても利用でき、主に中小企業などで行われる増資方法です。
増資できるだけではなく、取引先との関係を強化できる取引方法ですが、注意するべき点もあります。
この記事では第三者割当増資とは何か、そのメリットとデメリット、行う手順、実際に行われた事例などについて簡単に紹介します。
この記事を読めば、第三者割当増資はどんな目的で行うべきか、具体的に実践するまでのイメージを掴めますよ。
1.第三者割当増資とは?
第三者割当増資とは、新株を特定の第三者に買い取ってもらう資金調達の方法のことです。
ここでいう第三者とは不特定多数の人ではなく以前から友好的な関係にある人や企業を指すことが多いです。
特定の人や企業とよりよい関係を作るという目的で利用されることも少なくありません。
(1)公募増資や株主割当増資との違い
「第三者割当増資がどんな増資かいまひとつピンとこない」という場合は、他の増資方法と比べると違いがわかりやすいです。
第三者割当増資の他の増資方法としては公募増資や株主割当増資があります。
上場している企業であれば、新株を発行し増資を募る、公募増資を利用することが多いですが、上場していない企業の場合にはこの方法を利用できません。
株主割当増資では既存の株主を対象にする増資ですが、既存の持ち株数に応じた数の増資を行う必要があります。
A・B・Cという株主がいたら、その持ち株数に応じた範囲で行われます。
この第三者割当増資の場合には、既に取引のある企業や関係者に対して行われることが多く、未上場の中小企業で行われることが多いことが特徴です。
株主割当増資と異なり、特定の株主Aだけに増資を依頼する、ということもできます。
2.第三者割当増資のメリット
第三者割当増資は上場していない場合でも利用できる増資方法で、以下のようなメリットがあります。
- 未上場企業でも実行可能
- 返済義務がない
- 資本金が増え会社の信頼度が上がる
- 株主と良好な関係を築きやすい
- 1日で資金調達することもできる
では次で詳しく見ていきましょう。
(1)未上場企業でも実行可能
第三者割当増資は上場していなくてもできることが特徴です。
上場している企業であれば、新株を発行し増資を募る、公募増資を利用することが多いですが、上場していない企業の場合にはこの方法を利用できません。
増資方法として、その他に株主割当増資がありますが、これは既存の株主から増資を募る方法でそれぞれの株主の持ち株数に応じた増資しかできません。
第三者割当増資では特定の第三者に対して増資を依頼できます。
そのため、上場していない企業にとっては非常に利用されることが多い増資方法です。
(2)返済義務がない
第三者割当増資を受けるメリットは返済義務が発生しないことです。
資金調達の方法として融資を受けるという方法もありますが、これは返済する義務があり、返済までの時間的な制約が生じます。
これに対して第三者割当増資は、出資であるため返済義務がなく、最悪倒産してしまった場合でも、返済する必要がありません。
また、融資と異なり負債ではないため、バランスシートの改善も見込める場合もあります。
ただし業績が伸びてくれば、株主に配当金を払う必要が出てくるため、その点は注意しましょう。
(3)資本金が増え会社の信頼度が上がる
第三者割当増資を受けることで、資本金が増え、会社として信頼度が上がることがメリットです。
資本金の額は会社の評価の基準の一つと言われており、資本金があるほど、取引先の安心感や、融資を受けるためのハードルが下がります。
また資本金があることで、運転資金が確保でき、事業展開がしやすくなります。
(4)株主と良好な関係を築きやすい
第三者割当増資のメリットは、購入する株主との良好な関係が築けることです。
第三者割当増資はその性質上、以前から付き合いがある取引先や取引のある金融機関に対して行われます。
株式を与えることで、株主がその会社に対して大きな影響力を持つことになるため、株主と有効な関係を築く要素としても利用されます。
取引先が第三者割当増資の相手だった場合、商品やサービスを購入した利益に加えてそれによって生じる配当金を受け取れるというメリットがあります。
逆に良好な関係が築けない場合、会社に対して悪影響を与えるため、取引先であれば誰でも良いわけではありません。
(5)1日で資金調達することもできる
第三者割当増資のメリットは1日で資金調達できることです。
総引受契約といい、特定の第三者に発行する全ての株を引き受けてもらうことで、新しい株主の募集などを行うことなく、スピーディに資金調達を完了させられます。
ただし、これを実現するには、事前に株式総会の特別決議で、株式の発行数や払込の額、期日などを決めておく必要があります。
また資金調達後、登記の手間は必要になるため、その点には注意が必要です。
3. 第三者割当増資のデメリット
第三者割当増資は中小企業の増資方法としてメリットが多いですが、デメリットもあります。
そのデメリットは以下の通りです。
- 会社の意思決定に影響を与える
- 資本金の金額によっては納税額に影響を与える
- コストと手間がかかる
では次で詳しく見ていきましょう。
(1)会社の意思決定に影響を与える
第三者割当増資のデメリットは、会社の意思決定に影響を与える可能性があることです。
第三者割当増資は新しい株主を増やすため、既存株主の持ち株比率を低下させます。
既存の持ち株比率の状態によっては、会社経営の意思決定に影響を与える可能性もあります。
そのため、第三者割当増資で発行する株式の量は持ち株比率の変化に注意し、会社経営に影響を与えないようにしましょう。
(2)資本金の金額によっては納税額に影響を与える
第三者割当増資のデメリットは、資本金が増えることで納税額に影響を与える可能性があることです。
資本金は、初年度の法人であれば、資本金1000万以下の場合には消費税の納税が最長2年免除されます。
また、資本金が1億を超えると、交際費を年間800万まで経費にできるなどの優遇措置が受けられなくなります。
初年度以降であっても、資本金の額が1000万円、1億のラインを超えると納税額が大幅に変わるため、第三者割当増資を検討する場合、できるでけこれらの条件を満たさないようにすることが大切です。
(3)コストと手間がかかる
第三者割当増資のデメリットは、コストと手間がかかることです。
第三者割当増資を行うことで、登録免許税がかかり変更登記を司法書士にお願いした場合には、その報酬も必要になります。
また第三者割当増資を行うためには、いくつかの手順が必要になるため、時間や手間も取られてしまうことには注意しなければいけません。
4.第三者割当増資を行う手順
第三者割当増資を行うには、いくつか手順を踏んでいく必要があります。
具体的な手順は以下の通りです。
- 募集事項の決定
- 募集事項の通知
- 募集事項の申し込み
- 株式の割り当てを決定する
- 出資金の支払いと登記の申請
この流れの中でも特に重要になるのが、募集事項の決定です。
決定するべき項目として以下の項目などがあります。
- 募集株式の数
- 募集株式の払い込み金額や計算方法
- 増加する資本金や資本準備金について
この手順を行わないまま、登記が必要になった時から2週間経過すると、100万円以下の罰金を支払わなければなりません。
そのため、上記の手順をできるだけスムーズに行う必要があります。
また専門的な知識が必要になるケースも多いため、税理士への相談が必要になるケースがほとんどです。
5.第三者割当増資で株価を決める方法
第三者割当増資を行う際には、必要とする金額に応じて、発行する株式と株価を決める必要があります。
特に中小企業で第三者割当増資を行う婆には、市場に出ていないため、スムーズに株式の価格を決められません。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
ではそれぞれのアプローチ方法について次で具体的に見ていきましょう。
(1)コストアプローチ
コストアプローチとは、その会社の純資産から負債を引いて得られた企業の価値を算出して求める方法です。
上記の方法で得られた企業価値を発行株式で割ることで、一株あたりの株価を計算します。
またこの資産に有価証券や不動産などの資産の時価を純資産額に加える場合もあります。
以下の記事でコストアプローチの方法を解説していますので、詳しくはこちらの記事を参照してください。
(2)インカムアプローチ
インカムアプローチとは、将来のキャッシュフローを現在の価値に換算して、企業の価値を計算する方法です。
コストアプローチに比べると、将来的な要素を株式価格に反映させているのが特徴です。
以下の記事でインカムアプローチの方法を解説していますので、詳しくはこちらの記事を参照してください。
(3)マーケットアプローチ
マーケットアプローチでは、上場企業の中から業種や事業規模が近いものを参考に株価を決める方法です。
この方法は、上場企業から類推する例を探すため、比較対象として適切な会社が見つからないことで利用できないケースもあります。
以下の記事でマーケットアプローチの方法を解説していますので、詳しくはこちらの記事を参照してください。
(4)税理士と相談しながら進めるのがベター
第三者割当増資で重要になる株式の決め方は種類が多く、どの計算方法を採用するべきなのかは、その会社ごとに異なります。
安易に株価を決定することで、株式の価格下落に繋がる可能性もあります。
取り返しのつかない事態を回避するためには、株式の値段を決める時、税理士に相談しながら進めた方が間違いありません。
6.第三者割当増資の事例
「第三者割当増資を行った会社にはどんな会社があるの?」
そう疑問ではないでしょうか。
ここでは第三者割当増資を行った会社にはどんな会社があるのか、その事例を紹介します。
(1)サムライJP
サムライJPは、2018年5月に第三者割当増資を実施した会社です。
この会社は主に、投資銀行事業やITサービス事業などを展開しています。
この会社では、互いの事業のノウハウを生かした事業展開や事業拡大を目的に、以下の企業を相手に過去5回第三者割当増資を実施しています。
- 株式会社ケイブ
- 石垣食品株式会社
- 新都ホールディングス
これらの第三者割当増資などによって2019年1月31日時点で2,105百万円の資本金を調達しています。
(2)gumi
gumiはモバイルオンラインゲームや、VR事業を手がける会社です。
開発費を賄うために自社の役員3名を割当先として第三者割当増資を行っています。
この結果、この会社では5億円もの資金調達を行いました。
この資金は、モバイルオンラインゲーム事業の開発資金として割り当てられることが発表されています。
(3)興銀リース
興銀リースは、建設機械や自動車の総合リースを行っていた会社です。
この第三者割当増資の引き受け先はみずほ銀行で、みずほフィナンシャルグループとの資本業務提携に合わせて行われました。
635万5000株、金額に換算すると約164億円の増資が行われました。
この結果、みずほ銀行は興銀リースの株を21.7%保有し、この会社の筆頭株主となっています。
(4)ソフマップ
ソフマップはパソコン専門店として業績を広げてきた会社ですが、ビックカメラの連結子会社となることを目的に第三者割当増資が行われました。
ソフマップでは業績の低迷を機にビックカメラと業務提携を行い、中古買取、仕入れや販売ノウハウの共有が行われてきましたが、それも十分な成果が得られないと判断、第三者割当増資によって連結子会社になる判断をすることになりました。
この結果、業務提携の効率化が強化されるとともに、ソフマップの固定資産の減損処理によって発生する債務超過を回避しました。
7. まとめ
この記事では、この記事では第三者割当増資とは何か、そのメリットとデメリット、行う手順、実際に行われた事例などについて簡単に紹介しました。
第三者割当増資はうまく実践すると、取引先との関係を強化しつつ資本を集められる資金調達方法です。
この記事を参考に資金調達の方法の一つとして第三者割当増資を検討してみてはいかがでしょうか。