アーンアウト条項とは?設定期間や会計処理から事例まで徹底解説

「アーンアウトってどのような意味だろう?」
「アーンアウトのメリットデメリットって?」

このようにアーンアウトに対して疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか?

アーンアウトは売手買手共にデメリットが少なく、魅力的な買収の手段といえます。

今回の記事では、アーンアウトの意味、メリット・デメリット、そしてアーンアウト条項を利用した取引の事例を詳しく説明します。

この記事を読むことで、M&Aの取引の幅が広くなり買収を考えている方にとって良い指南となります。

アーンアウトを網羅的に理解して、実際にアーンアウトを活用していきましょう!

1.  アーンアウト条項とは

アーンアウト条項とは、買収する企業に対してまとめて金額を支払うのではなく、最初に本来の買収額の何割かを支払い、その後、ある一定の期間を定め、その期間における買収先企業の業績によって追加で報酬を与えることです。(別名、条件付取得対価といいます。)

アーンアウト条項を使うことで本来の企業価値より多く金額を支払うリスクを低減することができるからです。

例えば、通常のM&AではA社を100億で買収するところを、アーンアウト条項を利用したM&Aでは最初に50億だけ払い、その後の追加報酬額は業績が良ければ70億、悪ければ30億になったりします。

企業をM&Aで買収する時は未来の買い物的要素も強く、買手もリスクが伴いますがアーンアウト条項であれば買収のときに発生するリスクを軽減することができます。

2.  アーンアウト条項の目的

アーンアウトが使われる目的は、買手企業と売手企業との買収対価のズレを統一することです。

例えば、売手企業が「わが社は100億以上の企業価値はある」と考えていても、一方で買手企業は「この企業の価値は70億円程度だな」と想定しているなど、お互いの見え方、価値観、考え方は違って当たり前です。

そのような買手側と売手側の価値観や考え方の統一を図るためにアーンアウトが設けられます。

実際にアーンアウトを設けることで双方の意見の食いちがいや考えかたのズレを埋め、M&Aの適正価格をより正確にしてくれます。

アーンアウトはお互いにとってメリットが多いので取引が成立しやすいです。

3.アーンアウト条項の期間設定

アーンアウトを利用する上で大切なことは、取引に設定する期間です。

理由は、期間の設定次第で売手企業の経営者や従業員のモチベーションが決まるからです。

例えば、アーンアウトの設定を10年という長い期間設定すると、売手側の経営者や従業員のモチベーションが上手く続かずに頓挫することも多くあります。

アーンアウトにおける理想的な期間は3年とされています。

3年は期間的に長くも短くもなく、売手側のモチベーションも続きやすいので3年前後が一番の良い期間とされています。

実際にアーンアウトを使用して取引をしている会社の平均的な期間も3年前後となっています。

アーンアウトの期間を設定するときは、3年を目安にしましょう。

4.  アーンアウト条項のメリット・デメリット

アーンアウトを体系的に理解するためには、買手企業と売手企業のメリット・デメリットを理解しておきましょう。

アーンアウトのメリット・デメリットを買手側と売手側両方の目線から説明していきます。

まずはメリットから説明します。

(1)買手の2つのメリット

買手には以下の2つのメリットがあります。

  • 買収先の企業に対して多く金額を支払ってしまうリスクを軽減できる。
  • 買収先の企業に対して、経営者や従業員のモチベーションを上げられる。

順に説明していきます。

メリット1 : 多く金額を払ってしまうリスクを軽減できる

アーンアウトでは、実際の業績に基づいた金額を支払うので、売手企業に対して払いすぎてしまうというリスクを軽減できます。

これが通常のM&Aの場合は、正確に買収先企業の価値を算定するのは難しく、企業価値以上の金額を支払ってしまう恐れがあります。

このように買収時に起こってしまうリスクも避けられるということも、買手側のメリットの1つです。

メリット2 : 売手経営者や従業員のモチベーションを上げられる

買収先企業のモチベーションを上げれるのも買手側のメリットの1つです。

通常のM&Aで売買する場合は、以下のような理由から売手企業の経営者や従業員のモチベーションを下げてしまうこともあります。

  • 買収をされることにより、リストラなどの状況を危惧される。
  • 急に他の会社の一部になることで、文化、働き方が変わりモチベーションが変わる。

しかし、売手側の業績しだいで買収額が変動するアーンアウト条項を設定することで、売手企業の経営者や従業員のモチベーションを維持することができます。

(2)売手の2つのメリット

売手には以下のメリットがあります。

  • 条件を達成すれば、多くの報酬がもらえる。
  • 条件達成のため全体的に士気が上がる。

順に説明していきます。

メリット1:条件の達成で多くの報酬が手に入る

売手側の1つ目のメリットは、条件を達成すれば、業績しだいで多くの報酬がもらえることです。

普通のM&Aであれば、最初に報酬をもらって終わりですが、アーンアウトは業績次第で予想の報酬を上回る可能性があります。

事業に対する目標が設定されることで経営者や従業員のモチベーションも上がるので、まさに一石二鳥といえます。

メリット2 : 条件達成のために経営者や従業員の士気が上がる。

売手の2つ目のメリットは、アーンアウトでの条件を達成することを目指すので従業員の士気があがるところです。

買手企業のメリットに、業績しだいで多くの金額がもらえることが売手企業のモチベーションを維持できるという点がありましたが、売手企業によっても大きなメリットです。

普通のM&Aであれば、取引が終わり売手企業の経営者や従業員の間で社内での目標が無くなることも多いですが、アーンアウトで新たな目標が提示されることで「最後に目標に向かって頑張り、絶対に達成しよう」という士気が高まり前向きな風が社内に吹くというメリットもあります。

このようにアーンアウトは、買手企業にとっても相手のモチベーションを維持できるメリットもあり、売手企業にも従業員の士気が上がり、目標を達成しようという前向きな風が吹くなど両者に多くのメリットがあります。

(3)買手側のデメリット

買手のデメリットは、実際に取引になると契約の面でとてもややこしいところです。

理由は、アーンアウトはもともとアメリカで広まった買収方法であり、日本ではまだ浸透していないからです。

しかし、近年アーンアウトを使用した取引も日本で多くなってきています。

日本でアーンアウトが当たり前のように交渉の場面で使われるようになれば、取引の時に感じるややこしさは払拭されるでしょう。

(4)売手側のデメリット

売手側のデメリットは、アーンアウトで最初に受け取れる対価が少なくなってしまうことです。

M&A後の業績が思うように伸びない場合は、通常M&Aで得られるであろう金額を下回る可能性もあります。

アーンアウトは将来売手である会社が良い実績が出せたら報酬が貰える仕組みなので、M&Aが終了した時点での報酬が少ないことがデメリットでもあります。

5.  アーンアウト条項の会計処理について

買手企業はアーンアウトの会計上、買収先企業の資産を貸借対照表に計上します。

しかし、買収の時点で取得価格の総額が不透明であることも多いです。

そのような場合アーンアウトはどのように対処していくのかを日本の基準と、国際財務報告基準(IFRS)の2つの基準をご紹介していきます。

(1)日本基準の場合

日本の会計基準でのアーンアウトの会計処理は、条件付取得対価によって確定された時点で追加的に処理されることが決まっています。

売手企業の買収時点で純資産金額がひとまず計上され、その後アーンアウト条項により条件付取引対価の支払いが確定になった時点でのれんも計上される仕組みです。

まとめると、以下のようになります。

アーンアウト条項の会計処理:日本基準
1.M&A実行時ののれんの取得日時点で処理される分。
2.条件付取得価格が交付または引き渡しが確定になった時点で追加的に処理される分。

(2)IFRSの場合

次は、IFRSの場合について見ていきます。

IFRSとは国際財務報告基準のことを指しており、会計処理についてはIFRSが国際財務報告基準3号の企業結合にてこのように述べています。

国際財務報告基準3号
企業連結日時点で条件付取得対価は、公正価値で計上される

IFRSでは計上した条件付き取得対価におけるのれんの公正価値は変動することがないため、公正価値による見立てが重要です。

つまり、アーンアウト条項をIFRSで会計処理する場合は、売り手側企業の利益の達成ができるかを見極めることが始めの時点でとても大切です。

6.  アーンアウト条項の事例3つ

ここでは実際にアーンアウトを使ってM&A取引をした企業を紹介していきます。

アーンアウトは海外、特にアメリカでは良く使われていることが多いのですが、近年日本でもアーンアウトを使った事例も多くなってきました。

日本でのアーンアウトの事例をしっかりと学ぶことで、アーンアウト条項を利用したM&Aをイメージしやすくなるので、しっかり理解しましょう。

(1)マイクロコレクトロニクスによる事例

1つ目はマイクロコレクトロニクスがオーストラリアのAMSを買収した事例です。

買収した日付は2016年7月29日に買収が決まり、当初の取引の頭金の数字は79億円という数字で買収が決定しました。

アーンアウトでマイクロコレクトロニクスが提示した金額は3700万ドルと言われていましたが、AMSの業績が買収後に悪くなったことから実際の報酬金額は1300万ドル程度ではないかといわれています。

(2)マネックスによる事例

2つ目は、マネックスがコインチェックを買収した事例です。

マネックスが買収した頭金は36億円で周りの反応は「安いのではないか」などの声もありました。

アーンアウト条項は、「3年間でコインチェック社が達成した金額の半分をアーンアウトとして支払う」というものでした。

例えば、2021年にはコインチェック社の業績が500億円を達成した場合、その半分である250億円がマネックスからアーンアウトの報酬金額としてもらえるということです。

2021年にはコインチェック社がどのような業績になっているかが楽しみでもあります。

(3)DNAによる事例

3つ目は、DeNAがアメリカ企業のNgmocoを買収した例です。

2010年10月12日に買収が決まり、257億円でアメリカのNgmoco社を買収しました。

アーンアウト条項は、アメリカのNgmoco社に対して業績に応じて最大、85億円を2012年までに支払うというものでした。

ちなみにDeNA社が買収した際に、「買収の金額が高すぎるのではないか?」という声も上がりましたが、当時の日本は円高などの背景もあり、このような金額提示になりました。

7.  まとめ

アーンアウトについてご理解頂けたでしょうか?

この記事では、アーンアウトの買手売手側のメリットデメリットについてや、日本基準やIFRSでの会計処理について、実際のM&Aの取引による事例をご紹介しました。

また今回アーンアウトについてご紹介したことにより、企業を買収する時にアーンアウトを検討してみようかなと思って頂けた方も多いと思います。

アーンアウトは双方にとってデメリットが少ないので、買収をするときはアーンアウトを選択肢に入れて、企業の買収に役立てて頂ければ幸いです。

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