「MBOって最近よく聞くけれど、そもそも何なんだろう?」
「MBOのメリットやデメリットには何かあるんだろう?」
ニュースや新聞を見て、このように疑問を持つ方はいませんか?
以前は主に外資系企業や大企業において盛んだったMBOですが、現在では中小企業でも多く行われるようになっています。
今回は、今後もビジネスのあらゆる面で重要なワードとなるMBOについて基礎からしっかりと解説しています。
この記事を読めば、MBOについての疑問はなくなりますよ!
1. MBO(マネジメントバイアウト)とは
MBO(マネジメントバイアウト)とは、企業の経営陣(ときには従業員も)が、その会社や事業の一部を買収する取引のことをいいます。
MBOはM&Aの一手法ですが、現経営陣による企業買収であり、買収後も同じ経営陣の下でその企業の経営が行われることに特徴があります。
日本では1990年代後半以降、主に外国籍の親会社から独立する際に採られた手法ですが、近年では国内の中小企業でもMBOを行う企業が増加しています。
ところで、そもそもなぜ企業の経営陣が自社を買収する必要があるのでしょうか?
そこで以下からは、MBOが行われる主な目的を2つ紹介します。
目的1. 親会社からの独立
MBOは、企業内の一事業部を別会社として設立させる時、また親会社から独立させる場合に用いられます。
買収後も親会社と友好関係を築きやすく、経営体制を承継できることから、MBOは「現代版のれん分け」と称されることもあります。
中小企業の事業承継や事業譲渡など、MBOは多様な面で活用することができるため、新たな経営戦略として今後さらに活発になっていくと考えられます。
目的2. 非公開会社化
MBOは、上場企業が非公開会社化する際にも用いられる手法です。
資金調達の必要性低下などによって株式公開のメリットが薄れた上場会社が、自ら非公開会社化する場合にもMBOが用いられます。
また、上場企業が敵対的買収の危機に瀕した際、経営陣が株主から自社株を取得することで、敵対的買収を防ぐ究極的な回避手段にもなります。
2. MBOには目標管理制度という意味もある
実は、MBOという言葉には、もう一つの意味があります。
これまでにご紹介したものは、M&Aの一種である会社買収手法であるMBOでした。
それとは別に、近年、組織における目標管理制度としてのMBO(Management By Objectives)が注目を集めています。
これは著名な経営思想家ピーター・ドラッカーが提唱したもので、個々の従業員の目標を、経営目標や部門目標と連動させることによって全体の業績向上を目指すものです。
個人の目標と企業の目標とがリンクすることから、従業員が自発的に業務に従事し、企業の成功に貢献するという意識を持たせることができるようになります。
こうした目標管理制度としてのMBOもビジネスシーンではよく使われるので、しっかり概要を抑えておきましょう。
3. MBOの種類
MBOは、買手の種類によっていくつかの類似する手法に分類されます。
- EBO(Employee Buy Out)
- MEBO(Management Employee Buy Out)
- MBI(Management Buy In)
それぞれの手法の特徴と、どのような場合に用いられるのかを簡単に説明します。
(1) EBO(Employee Buy Out)
EBO(Employee Buy Out)とは、従業員が自社を買収する手法を指します。
MBOが役員による自社買収であるのに対し、EBOは従業員によって自社買収が行われる点が特徴です。
事業単位で本社から独立する際に、役員ではなくその事業部の部長が事業承継する場合などがあります。
(2)MEBO(Management Employee Buy Out)
MEBOは(Management Employee Buy Out)は、役員と従業員が共同出資して自社を買収する手法を指します。
MBOとEBOを組み合わせた形であるといえます。
(3)MBI(Management Buy In)
MBI(Management Buy In)とは、金融機関等が株式を買収し、会社経営に参画する手法を指します。
こちらはMBOやMEBOと異なり、外部から経営陣を招き入れることが特徴です。
技術力やブランド力はあっても経営能力をもつ経営陣が自社に存在しない、という場合に採用されることがあります。
4. MBOのメリット3つ
MBOの目的や手法は以上述べた通りですが、他のM&A手法と比べるとどのような違いがあるのでしょうか?
ここでは、MBOのメリット・デメリットを3つずつ整理しました。
まず、MBOのメリットとして、主に以下3つのものが挙げられます。
- 意思決定のスピード化・自由化
- 社内の連帯強化
- 親会社にもメリットがある
それぞれ順に説明します。
メリット1. 意思決定のスピード化・自由化
MBOを実施することにより、経営陣に自社株式が集中し、意思決定のスピード化が見込めます。
また同時に、経営権が集中することで、株主や親会社の意向に左右されない自由な意思決定を行うことができるようになります。
目まぐるしく市場が変動する現代では、柔軟なアイディアとスピード感のある意思決定が求められています。
その一方、上場企業は株主に対して利益を還元する義務を負っているため、株価変動に縛られた短期的な利益を追求せざるを得ず、中長期的な戦略を選択することができません。
そのため、MBOによって所有と経営を一致させ、本当にその企業のためになる経営戦略を採ることができるようになります。
メリット2. 社内の連帯強化
MBOは他のM&A手法とは異なり、従業員からの理解を得られやすいメリットがあります。
他社による買収ではなく自社経営陣が買収を行うことで、従来の雇用条件や経営方針が維持される場合が多く、従業員が安心して就労することができるためです。
さらに、今までは行えなかった思い切った成長戦略を、経営陣と従業員が一体となって行うことができるようになり、社内の連帯感の強化が期待できます。
メリット3. 親会社にもメリットがある
MBOは被買収会社(子会社等)にとってのメリットだけでなく、売却側(親会社等)にもメリットがあります。
まず、後継者への経営権の移譲など、事業承継を円滑に進めることができる利点があります。
MBOでは従業員や企業機密が競業他社へ漏えいすることを防ぐことができるだけでなく、これまで築いてきた信用やブランドを保持することができます。
この点から、現在多くの老舗中小企業が抱えている深刻な後継者問題の打開策として注目されています。
また、親会社は保有株式を現金化できることにより、株式公開によらない資金獲得をすることができます。
このように、創業者利潤を実現できるので、こちらも中小企業においてMBOが注目される一つの要因となっているといます。
5. MBOのデメリット3つ
以上見てきたように、MBOは多様なメリットがあります。
しかしその一方で、MBOは主に以下3つのデメリットも抱えています。
- 資金調達の選択肢が減る
- 経営に対する監視機能の低下
- 既存株主からの反発を招く
MBOを実施する前に、これらのメリット・デメリットを理解し、比較する必要があります。
デメリット1. 資金調達の選択肢が減る
MBOの実施により上場廃止となった場合、市場からの資金調達ができなくなります。
上場企業であれば、新株発行による資金調達や、新株予約権の割当てを通じた資金調達が可能です。
このような手段を通じ、資金調達を市場に依存していた場合には、MBO後の資金繰りについて対策をしておく必要があります。
また、既存株主からの株式取得に多額の費用を要した場合、買収後に大きな負債を抱えることとなり、経営を圧迫する可能性も考えられます。
デメリット2. 経営に対する監視機能の低下
MBOによって企業が非上場化した場合、市場や株主からの経営に対する監視機能が低下する恐れがあります。
上場企業であれば、法令や取引所の定める義務に従って情報を適時開示するため、株主や投資家、会計監査人からの監視を受けることができます。
しかし、MBOによって非上場化すると、これらの義務の全部ないし一部が失われるため、経営に対する監視機能が低下し、経営権の濫用が起こりやすくなります。
デメリット3. 既存株主からの反発を招く
上場企業の場合、MBOによって既存株主からの反発を招く恐れがあります。
これは、買収側は株式を安く取得したい一方、既存株主は高く売却したいと考えるため、利益相反が生じるためです。
既存株主が買取に応じず、買収後も株主として存続すると、MBOのメリットである意思決定のスピード化・自由化の障害となる恐れがあります。
6. MBOを成功させるためのポイント3つ
ここまではメリット・デメリットを中心に、MBOの特徴を説明しました。
それでは、実際にMBOを実施する際にはどのようなことに注意したら良いのでしょうか。
ここからは、MBOを成功させるために注意すべき3つのポイントをご紹介します。
ポイント1. 信頼できる経営陣がいること
MBOを成功させるためには、事業経営を承継できる経営陣が社内にいる(あるいは外部からハンティングできる)必要があります。
役員としての能力と、経営責任者としての能力は全く異なるからです。
そのため、特にMBOによって事業や部署を独立させる場合には、事業を継続させることのできる経営能力を持つ経営陣の存在が不可欠です。
ポイント2. 採算性と継続性の高い事業を選ぶ
MBOによって買収される企業は、MBO後の事業計画が盤石なものである必要があります。
特に、親会社からの独立を目的としている場合は、自社のみで採算の取れる事業を行なっていけるかがポイントとなります。
また、MBOを実施すると株式取得にかかった負債や借入れといった債務が増加するため、十分な利益を継続的に確保できるかどうかも見極める必要があります。
ポイント3. 専門業者を使う
MBOの実施にあたっては、専門的な知識を必要とすることが多いため、専門業者に委託するようにしましょう。
さきほど説明したように、MBOは既存株主からの反発を招きやすいデメリットがあります。
既存株主に納得してもらうためには、客観的な資料に基づく妥当な買取価格を提示する必要があります。
しかし、その根拠を示す資料を自社で作成し、既存株主に説明することには大変な困難が伴います。
また、各種法令や取引所のルールを遵守してMBOを自社で行うことも難しいでしょう。
MBOの実施を検討するのであれば、まずは専門業者に相談することから始めましょう。
7. MBOの実例3つ
MBOの基礎知識についてご理解していただけたでしょうか?
それでは最後に、実際に国内で行われたMBOについて、その実施目的と手法について確認してみましょう。
実例1. ワールド(アパレル)
タケオキクチ等を展開する国内有数のアパレル大手であるワールド社は、2005年にMBOを実施しました。
その目的は「長期的、持続的な企業価値の最大化を図るため」とし、純粋MBO(社員が議決権を100%保有するもの)を行いました。
MBOの実施に必要であった約2300億円は、銀行からの融資と社債の発行によって調達しています。
同社はMBO実施後、販売員であるパート・アルバイト約5000人を正社員化するなど、中長期的な経営戦略へとシフトしました。
当時東証一部上場企業であった同社は、MBOによって非公開会社化となりましたが、2018年に再び上場しています。
実例2. ホリプロ(芸能プロダクション)
スカウトキャラバンで有名なホリプロ社は、2012年にMBOを実施しました。
同社は1989年に業界で初めて株式公開を行い、2002年には東証一部上場企業となっていました。
創業者である堀氏が代表する青春社が、約76億円を投じてTOB(株式公開買付)を行い、ホリプロ社は非公開会社化しました。
MBOの実施理由としては、「上場維持コストの削減や、大胆な新規事業計画について株主や市場に左右されない意思決定をするため」としています。
実例3. 幻冬社(出版社)
ユニークな新書や雑誌を発刊する幻冬社は、2011年にMBOを実施しました。
同社は1993年に設立し、2003年にはJASDAQ上場を果たしていました。
MBO実施の理由は、「電子書籍の登場等による出版業会の環境の変化に順応し、抜本的な構造改革に向けた迅速な意思決定を行うため」としています。
こちらも、創業者である見城氏が代表するTKホールディングス社によるTOBによってMBO実施を試みました。
ところが、買付期間終了前に突如現れた外国籍ファンドが同社の株式のうち40%弱をも取得するに至り、一時はMBOの失敗も危ぶまれました。
そのため、TOB価格を当初よりも釣り上げる必要はありましたが、最終的にファンドはTOB価格での売却に応じ、MBOが完了しました。
ファンドは特に大きな利益を得た訳ではないことから、「見城氏に対する嫌がらせの一種だったのではないか?」ともみられています。
8. まとめ
今回は、MBOの基礎知識から国内での実例までご紹介しました。
MBOは今後日本においても、様々なスケールで展開されていくことが予想されます。
この記事を参考に、今後もぜひ注目してみてください!
最後までお読みいただきありがとうございました。