「特別目的会社(SPC)って何?」
「どういう目的で用いられるの?」
M&Aについて調べていて、特別目的会社・SPCという言葉を目にしたことはありませんか?
新聞や経済誌等でSPCが取り上げられる場合、会社の保有する債権や不動産を流動化させるための器としてのSPCが頻繁に登場し、M&Aに用いられるものは少ないかと思います。
そこで今回は、M&A目的でのSPCについて、その意義や設立のメリット・デメリットについて、基本的知識から具体例まで紹介します。
この記事を読めば、SPCに関する疑問はなくなりますよ!
1.特別目的会社(SPC)とは?
特別目的会社とは、「Special Purpose Company」を和訳したもので、一般にSPCと略されます。
ほとんど同じ概念を指す言葉として、特別目的事業体(SPV、Special Purpose Vehicle)があり、法人としての登記を備えたものがSPCと呼ばれます。
SPCは難しい概念ではありますが、一言で言い表すと「M&Aのために設立されたペーパーカンパニー」といえるでしょう。
なお、名称から勘違いされがちですが、SPCは会社法上の会社ではなく、資産の流動化に関する法律(資産流動化法・SPC法)に基づき設置される社団法人です。
そのため、通常の会社法上の会社とは異なる法的性質を有していることに注意しなければなりません。
SPCは会社の資産を流動化させる目的で設置されることから、財務局が管轄となり、利潤の追求が認められておらず、原則として倒産という概念が存在しません。
日本国外でもSPCは頻繁に用いられており、タックスヘイブンに設立することでマネーロンダリングや節税を行う機関として用いられることもあります。
2.特定目的会社(TMK)との違いは?
SPCとよく似た概念に、特定目的会社(TMK)があります。
両者は名前も概念もよく似ていることから混同されがちですが、厳密には異なるため、しっかりと差異を確認しておきましょう。
SPCが設立される目的は、資産流動化や投資目的や節税目的など様々であり、会社形態も株式会社や合同会社などバリエーションがあります。
一方、TMKとは、資産の流動化のみを目的として設立されたSPCのことを限定して指す言葉です。
したがって、TMKはSPCに包含される概念ですから、TMKは常にSPCである一方、SPCが常にTMKであるとは限りません。
ただし、上述したように両者は混同される場合が非常に多く、実質的に同一視されているという現状があります。
SPV、SPC、TMKの関係をまとめると、以下のようになります。
SPV(特別目的事業体):証券化などの目的に設立された会社や組合や信託
SPC(特別目的会社):SPVのうち、法人格を有するもの
TMK(特定目的会社):SPCのうち、資産の流動化を目的とするもの
SPCはSPC法に基づいて設立され、TMKは会社法に基づいて設立されることから、両者を設立準拠法の違いによって区別することもできます。
3.SPCの設立手続き
ここからは、SPCの具体的な設立手続きについて紹介します。
とはいえ、SPCの制度自体が会社法上の株式会社をモデルとしていることもあって、設立・登記に関しては通常の株式会社と大きく異なることはありません。
ただし、基準法が会社法ではなくSPC法であることから、以下のような点に注意しなければなりません。
- 資本金は10万円以上
- 内閣総理大臣への届出が必要
- 登録免許税は3万円
- 定款印紙が必要
- 取締役1人に加え、監査役1人が必要
- 会計監査法人が必要な場合もある
- 設立後、資産流動化計画を作成し、業務開始届出を提出しなければならない
会社法に基づいてSPC(資産流動化目的の場合、TMK)を設立する場合、設立に関する手続きは以下のようなものになります。
- 資本金は1円以上
- 内閣総理大臣への届出は不要
- 登録免許税は最低15万円、合同会社ならば最低6万円
- 定款印紙は4万円(電子定款ならば不要)
- 合同会社ならば定款認証の要否も不要
- 取締役1人(合同会社ならば社員一人)だけで設立可能
- 会計監査法人は大会社のみ必要で、合同会社ならば不要
このように、会社法に基づいてSPCを設立する場合、金銭的・時間的コストの低さから合同会社としてSPCが設立されることが多いようです。
SPCを設立する際、どちらの法律に準拠するか、また、どのような会社形態を選択するかについては、高度に専門的なM&Aや法律の知識が必要となるため、出来る限り専門家に相談するようにしましょう。
4.M&AとSPCの関係は?
M&AにおいてSPCは、有利な資金調達条件でM&Aを実施することが可能となるため、対象会社を買収する際の資金調達の手段として設立されることが一般的です。
また、資金調達・M&Aが終了したのちは、SPCと被買収企業が合併して企業再編を行うケースも見受けられます。
SPCを用いて資金調達・買収・合併を行う一連の流れのことを、LBO(レバレッジドバイアウト)と呼びます。
LBOは、少ない資本(場合によってはゼロ)で、自社よりも資産価値の大きい企業を買収することができるため、M&Aにおいてよく用いられる手法です。
過去の有名な事例では、ライブドアのニッポン放送買収未遂などが同様の手段を用いていました。
以下からは、実際のLBOの流れを簡単に紹介します。
#1:SPCの設立
まず、買い手企業がM&Aの受け皿となる、SPCを設立します。
一般的に、LBOに用いられるSPCは合同会社であることが多いようですが、株式会社であってもかまいません。
設立するSPCは、資本金が買収金額と比べて大幅に少額であっても大丈夫です。
理論上は、買収資金に100億円単位のキャッシュが必要であっても、会社設立の要件を満たす金額さえ保有していれば問題ありません。
#2:金融機関から買収資金の借入
次に、SPCが銀行等の金融機関や、ファンドからM&Aに必要な資金を調達します。
この結果として、SPCは、買い手企業とは独立した多額のキャッシュと債務を抱えることになります。
#3:SPCによる買収の実施
銀行等から融資された資金を用い、SPCがM&A対象企業を買収します。
買収対象企業がM&Aに同意を得ていない場合には、TOB(株式公開買い付け)などの敵対的買収手法を用いることもあります。
ここで、M&A対象企業の株式の3分の1の株式を保有することができれば株主総会の特別決議を拒否でき、過半数を取得すれば子会社化が可能となります。
今回は、SPCがM&A対象企業の株式の過半数を取得し、SPCが親会社・M&A対象企業が子会社となったものとして話を進めます。
#4:SPCによる合併の実施
最後に、SPCとM&A対象企業を合併させます。
合併によって両社が合一することから、SPCが保有していた債務は実質的にM&A対象企業が保有することになります。
ここで重要なことは、これら一連の流れを通じ、買い手企業は一切債務を抱えることなく、むしろM&A対象企業にこれを転嫁していることです。
LBOを用いることにより、小さな元手であっても大きな企業を買収することが可能となりますが、そのためのステップとしてSPCが設立されます。
5.SPCのメリット3つ
ここまでは、SPCの意義や、よく似た概念との違い、設立方法などを紹介してきました。
上に述べたLBOの例をみると、少額の資本で大規模なM&Aが可能となる素晴らしいシステムのようにも思われます。
さらにSPCは、M&Aに用いる場合だけではなく、節税や資産運用といったメリットも有しています。
ここでは、SPCのもつ主なメリットを3つ紹介します。
(1)資産のオフバランス化ができる
SPCを設立することにより、企業の保有する資産のオフバランス化を行うことができます。
オフバランス化とは、企業の貸借対照表(バランスシート)から、不動産などの資産を切り離すことをいいます。
不動産などの多額の資産の購入は、金融機関等からの借入を受けて行うことが一般的です。
そのため、不動産等を大量に抱えた場合には、企業の負債比率が上がり、自己資本比率が低下してしまいます。
自己資本比率が低下した場合、財務状況を改善する手段としては①不動産等の売却か、②第三者割当増資を行うことにとって比率の向上を図ることが考えられます。
しかし、①不動産等の売却は二束三文な取引となることも多く、権利を手放すことにも抵抗があり、②増資は既存株主からの反発を招く恐れがあります。
そこで、③SPCを設立し、そのSPCに不動産等を売却するという手段が採られます。
SPCに不動産等を売却することにより、企業は売却益を得られ、自己資金比率を上げることが可能です。
建前上はSPCは独立した別個の企業ですが、元々が自ら設立した会社であるため、実質的には売却後も不動産等の運用を行うことができます。
このように、SPCを設立することによって、資産のオフバランス化を行うことができるため、保有資産の多い企業や自己資本比率の低い会社で利用されています。
(2)資産の保持ができる
SPCの設立によって、企業の資産を守ることができます。
さきほど述べたように、SPCは別個独立した企業であると同時に、原則として倒産することがありません。
そのため、SPCを設立した本社が倒産した場合であっても、SPCの保有する資産が債務の引き当てとなったり、SPC自体が連動して倒産するということがありません。
資産のオフバランス化の項では不動産に限定して紹介しましたが、その他にも、売掛金などの債権や生産設備などを保有することもできます。
SPCによるオフバランス化とともに、資産を守ることができるという点も、企業経営においては大きなメリットであるといえるでしょう。
(3)少ない資本でM&Aを行うことができる
SPCを用いたM&A(LBO)のメリットとして、上述したように、少ない資本でM&Aを行うことができます。
本来であれば、M&Aを実施するためには莫大な資金が必要であり、また、その債務の返済は買い手企業が引き受けることとなるため、大きい負担となります。
しかし、SPCを設立した上であれば、買い手企業が債務を負わないままM&Aを実施することができます。
なお、LBOの場合、SPCの調達した買収資金が大きいほど、投資効率がよくなり、転売益が大きくなります。
そのため、SPCを用いた大規模なLBOをメイン事業とするファンドも多数存在しています。
6.SPCのデメリット3つ
ここまでは、SPCの設立により得られるメリットについて紹介しました。
SPCはM&Aに用いることができるとともに、資産の運用においても大きな役割を果たします。
しかし、SPCにはまだ他にもメリットがあると同時に、会社の経営基盤をも危うくする危険性をも包含しています。
M&Aの実施やSPCの設立を考えている場合には、これらの点を比較して設立の可否を考えるようにしましょう。
(1)運用コストがかかる
SPCのデメリットのひとつとして、設立・運用にかかるコストがあげられます。
一般の企業と比べると低額ではありますが、SPCの設立には資本金や登録免許税といったコストがかかります。
また、SPCの設立にあたっては各種届出の提出など一般の企業よりも複雑な手続きが必要となるため、弁護士などの専門業者へ依頼するコストもかかります。
なお、SPCの設立にあたって第三者の出資を得ている場合には、資産のオフバランス化を行った際の売却益を出資額に応じて按分する必要も生じます。
これらの点から、SPCを用いた場合には直接不動産等を処分するよりもコストがかかる点を考慮に入れなければなりません。
(2)悪用されるおそれがある
さきほどメリットの項で確認したように、SPCを用いることによって会社の保有する資産をSPCという箱に押し込むことによって、本社の貸借対照表の改善などを行うことができます。
このことは、メリットであると同時に、粉飾決算等のために悪用できてしまうというデメリットとしても現れます。
現在は法改正によって、本社とSPCが実質的支配関係にあると認められる場合には本社との連結が義務付けられるようになりました。
しかし、なおSPCを悪用する余地はあると考えられるため、自社のコーポレートガバナンスがしっかりと機能していることが設立の条件であるともいえるでしょう。
(3)M&A対象企業が負債を抱える
LBOはその性質上、SPC(合併が行われる場合にはM&A対象企業)が巨額の負債を抱えることになります。
債務が大きい分だけ利息も大きくなり、余剰資金や遊休資産はもちろんのこと、運転資金もほとんどこの債務の返済へと消えていくことになります。
SPCを用いたM&Aにはメリットもある一方、実施後の経営はかなり厳しいものになるため、M&Aによるシナジー効果などを考慮に入れた上で慎重な経営判断が求められます。
7.まとめ
今回はSPCの特徴等について、M&Aでの用法をベースに紹介しました。
SPCは類似した概念も多く、理解することが難しいものではありますが、この記事を繰り返し読んで理解を深めていきましょう。
なお、SPCの設立や、SPCを用いたM&Aには各種専門的知識が必要となるため、実施を考えている場合には早い段階で専門家に依頼することをおすすめします。