「EBITDAって何だろう?」
「他の指標との違いがわからない」
M&Aの場面でPERやROEと並んで目にする機会の多いEBITDAですが、日本ではまだ一般的とはいえず、このようにお悩みの方も多いのではないでしょうか。
今回は、EBITDAと、関連する指標について、利用目的や計算方法などを基本知識から徹底的に解説します。
この記事を読めば、EBITDAについて理解し、自分で計算して使いこなせるようになりますよ!
1. EBITDA(イービットダー・イービットディーエー)とは
EBITDAとは、「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation and Amortization」の頭文字を省略したものです。
直訳すると、金利支払い前、税金支払い前、減価償却費控除前の利益ということになります。
読み方には「イービットディーエー」や「イービットダー」などがあり、統一されたものはありません。
(1)EBITとの違いは?
EBITDAとよく似た指標にEBITがあります。
EBITDAとEBITとの違いは、減価償却費を利益計算に加えるかどうかにあります。
EBITとは、「Earnings Before Interest, Taxes」の略語であり、支払い利息と税金の影響を除いて企業の利益を測ることのできる指標です。
事業拡大中の企業や、スタートアップ期の企業は資金調達のための借入金が多いため、支払利息の額に左右されずに事業自体の経営状況を分析する際にはEBITが用いられます。
EBITは金利以外に発生する営業外損益を加えた利益額ではありますが、営業利益との差異があまりないため、実際に用いられる機会は多くありません。
一方、EBITDAは、支払利息だけでなく減価償却費をも除いて算出することに特徴があり、企業の収益力を測る際にはEBITDAのほうがより用いられる傾向にあります。
(2)EBITDAの計算方法
それでは、EBITDAがどのように計算されるのか説明していきます。
EBITDAを、『金利支払い前、税金支払い前、減価償却費控除前の利益』という上記の定義に従うと、以下のような計算式になります。
※厳密には受取利息や有価証券評価損益、無形固定資産に対する償却費なども計算の対象となります。
当期純利益に税金と支払利息を戻したものが当期純利益であることから、上の式をさらに簡略化すると、以下のようになります。
この計算式によって導かれたEBITDAを、特に償却前営業利益と呼びます。
同様の数値は、以下の計算式から導くことも可能です。
外国企業とは異なり、日本の企業ではEBITDAを項目として公表していない企業がほとんどですが、これらの式を用いれば、企業のEBITDAを簡単に算出することができます。
2. EBITDAの目的
EBITDAは、企業の収益力を分析したり、他社と比較したりする際に用いられます。
営業利益は、実際のキャッシュの動きを伴わない減価償却費が差し引かれた後に残る利益のことなので、実際に企業がどのくらいの収益をあげているのかを分析することができません。
また、減価償却費は年によって大きく変動することから、企業がキャッシュとしていくら稼いでいるのかを測ることが困難です。
一方、EBITDAは営業利益に減価償却費を足したものなので、企業のキャッシュベースでの収益力を分析することに適しています。
計算上は、利息と借入の返済がEBITDA以下に収まっている限り、その企業がキャッシュ不足になることはありません。
以下からは、EBITDAの具体的な利用目的を3つご紹介します。
目的1. 収益力の比較・分析に用いる
EBITDAは、企業の収益力の比較・分析に用いることができます。
減価償却の方法は定額法や定率法など企業によって異なるうえ、利益の状況に合わせて会計年度ごとに計上額の操作が行われることもあります。
EBITDAでは、減価償却費を差引く前の収益を分析できることから、設備投資額の多寡に左右されない収益力の分析が可能です。
そのため、同業種間だけでなく、設備投資額や減価償却方法が異なる他業種間であっても企業間の収益力を比較することが可能です。
減価償却費によって操作された帳簿上の利益ではなく、企業の持つ本来の利益を分析できる点は、EBITDAを用いる大きなメリットといえます。
目的2. 企業の年度ごとの収益力を比較する
EBITDAが減価償却費を除いて算出されることから、設備投資の波に影響されない収益力を経年的に評価することができます。
営業利益は本業の収益と費用を足し引きして算出する指標ですが、設備投資額によって大きく変動してしまう欠点があります。
設備投資が多い年では有形固定資産の減価償却費が大きくなり、営業利益が小さく計上されます。
逆に、設備投資が少ない年では有形固定資産の減価償却が少なくなり、経営利益が大きく計上されます。
このように、営業利益は設備投資の大きさによって影響を受けますが、設備投資は毎期一定の額が生じるものではないため、年度ごとのブレが生じてしまいます。
そのため、ある企業の営業利益だけを年度ごとに比較してみても、実際にキャッシュベースでどれほどの推移が起きているのかを判断することが困難です。
しかし、EBITDAは減価償却費のこのような影響を排除するため、本業の収入が安定して成長をしているかどうかを見極める際に適しているといえます。
目的3. 海外企業との比較に用いる
EBITDAは、海外企業と日本企業との収益力を比較する指標として用いることができます。
国や地域によって、税制や税率、金利額が異なるため、通常の指標では海外と国内の企業を単純比較することが困難です。
しかし、EBITDAは税引き前かつ支払利息を考慮しないため、これらに左右されない状態での海外企業との比較が可能です。
3. EBITDAのデメリット、注意点
以上見てきたように、EBITDAは企業の収益力を比較・分析するために優れている指標であるといえます。
しかし、EBITDAが減価償却費を控除する指標であることから、企業の経営状態を分析する上で注意すべき点が生じてしまいます。
以下からは、EBITDAのもつデメリット・注意点を2点ご紹介します。
デメリット1. 設備投資による経営圧迫を把握できない
金利負担や減価償却費控除前の額を評価するEBITDAでは、設備投資によって経営が圧迫されているかどうかを判断できません。
通常、企業は単発的な設備投資を行うのではなく、継続的に多額の設備投資を行います。
ところが、減価償却費を考慮しないEBITDAでは、大掛かりな設備投資によって実際には危機的な経営状況であるにも関わらず、指標上では安定的な成長をしているように見せることができます。
この点を悪用し、粉飾決算を行なっていた米国通信会社のワールドコムが2002年に経営破綻したこともあって、著名な投資家であるウォーレンバフェット氏もEBITDAの過信には警鐘を鳴らしています。
M&Aにおいては、買収先企業が今後も継続的な利益を上げることが買収の大前提となるため、設備投資の内容を把握したい場合にはEBITDAは向いていないといえます。
デメリット2. 厳密な指標ではない
EBITDAは、キャッシュベースの収益力を測ることができ、計算も簡単ですが、正確なキャッシュフローを把握できるわけではありません。
正確なキャッシュフローを計算するためには、在庫や売掛金の増減、設備投資等さまざまな項目を考慮する必要があります。
また、EBITDAでは税金や運転資本など、企業が存続していくために必要なキャッシュの動きが評価されません。
そのため、EBITDAはキャッシュベースの指標ではありますが、あくまで資金繰りの参考程度に用いるようにしてください。
4. EV/EBITDA倍率とは?
M&Aの場面では、EV/EBITDA倍率が用いられることがあります。
EV/EBITDA倍率とは、EV(企業価値)がEBITDAが何倍になっているかで表され、買収にかかるコストをEBITDAの何年分で回収できるかを指し示す指標です。
M&Aの際には、 EV/EBITDA倍率を基に、株価の割高感を判定したり買収価格を決定することになります。
(1)EV/EBITDAの目的
EV/EBITDA倍率は簡易買収倍率とも呼ばれ、負債を含めた企業買収コストを何年で回収できるかを判断する基準です。
EV/EBITDA倍率が高いと、その分だけコスト回収に時間がかかることになります。
一般に、EV/EBITDA倍率が6倍から7倍程度が目安と言われるため、これを下回れば割安、上回れば割高といえます。
M&Aで用いる際は、EV/EBITDA倍率が低いほど短期間で買収資金を回収できることとなるため、買収対象企業として適していると考えられます。
企業価値評価の手段は様々なものがあるため、EV/EBITDA倍率はあくまでその手段の1つにすぎません。
しかし、こちらも計算が簡単であることから、よく用いられる手法の1つです。
(2)EV/EBITDAの計算方法
EV/EBITDA倍率の計算方法は、以下の通りです。
EV=時価総額+有利子負債−現金
EV(エンタープライズバリュー)とは、企業価値とも呼ばれ、時価総額に有利子負債を足し、現金をマイナスすることで算出されます。
例えば、時価総額が10億円、有利子負債が3億円、現金が1億円の企業があり、その企業のEBITDAが2.4億円だったとすると、EV、EV/EBITDA倍率はそれぞれ以下のように計算されます。
12(EV)÷2.4(EBITDA)=5
この場合、負債を含めた企業買収コストを5年で回収できることになるため、先ほどの目安に照らすと割安の企業買収であると評価できます。
5. DEBT/EBITDA倍率とは?
DEBT/EBITDA倍率とは、EBITDA有利子負債倍率とも呼ばれ、その企業における有利子負債をEBITDA何年で返済できるかを判断する指標です。
DEBTとは有利子負債のことを指し、負債総額から現金預金を差引いたもので、すぐに返済できない借入金を意味します。
DEBT/EBITDA倍率は、企業における有利子負債の返済能力を示す指標であるともいえ、数値が小さいほど返済能力が高いと評価できます。
そのため、DEBT/EBITDA倍率はM&Aの前後で経営方針決定のために用いられることが多い指標です。
(1)DEBT/EBITDAの目的
有利子負債は、税効果によって企業価値を向上させる一面がある一方、多すぎると企業を倒産させる危険性を高めます。
そのため、企業の経営の健全性を測る指標の1つとして、その企業の収益力と有利子負債の多寡とを比較できるDEBT/EBITDA倍率が用いられます。
一般に、銀行が企業に融資する際には7〜10年で返済されることを期待していることから、DEBT/EBITDA倍率も同様に7〜10の数値内に収まることが企業経営の健全性の目安となります。
しかし、計算の大元となるEBITDAには、税金や設備投資が考慮されていないことに注意しなければなりません。
そのため、設備投資が多い業種やスタートアップ期の企業を分析する際には、DEBT/EBITDA倍率を有利子負債の返済能力基準として過大信用することは避けましょう。
(2)DEBT/EBITDAの計算方法
DEBT/EBITDA倍率の計算方法は、以下の通りです。
こちらも、計算方法自体は複雑なものではありません。
例えば、今期の借入金が1億円ある企業において、現預金が1千万円、EBITDAが2千万円であるならば、DEBT/EBITDA倍率は以下のように計算されます。
この場合、DEBT/EBITDA倍率は4.5であると算出されるため、その企業は有利子負債をEBITDA4.5年分で返済できることがわかります。
この数値をみる限り、先ほどの銀行による融資の基準に照らせば、有利子負債が少なく返済能力の高い健全な企業であると評価できます。
6. まとめ
今回は、M&Aの場面でよく用いられるEBITDAと、その関連指標についてご説明しました。
EBITDAは計算も単純で、かつ利用場面も多く、欧米では既に多くの企業が投資家等向けに自ら発表しています。
日本ではソフトバンクが決算期ごとにこれらの指標を公表しており、今後は他企業においても重用されることになると考えられます。
是非この記事を参考に、EBITDAを企業評価の際にお役立てください!