M&Aで必須のPPAとは?日本の現状とPPAの考え方、主な手順を解説

株価算定

「PPAとM&Aはどのような関係性があるのか」
「監査に耐えうるようにPPAの会計処理を行いたいがどのような考え方で行えばよいのか」

M&Aについて情報を集めている方の中には、PPAという概念が一体どういう意味を表すのか調べている方もいるのではないでしょうか。

本記事では、M&Aで必須のPPAの概要や考え方、PPAのプロセス、注意点等について紹介します。

PPAに関する知識を深めたい方は、ぜひ最後まで確認してみてください。

1.PPAとは

PPAとは

PPAとは、Purchase Price Allocationの略称で、取得原価の配分のことを言います。

取得原価とは諸資産を購入したときに払った支出金額のことです。

M&Aによって企業を買収した場合、被買収企業の資産および負債の状況を正確に把握するためにPPAを行う必要があることを押さえておきましょう。

PPAは基本的には経理担当者が行うことになりますが、高度な会計スキルや知識が必要なので、委託する企業が多いです。

2.PPAの現状

PPAの現状

PPAは企業結合会計(会計学ないし会計実務において、合併や株式交換などの企業結合に関する会計処理のこと )が日本に導入された後に、経理業務で行われるようになりました。

それでも、M&Aの際に無形資産(特許や商標権や著作権などといった知的資産など)の計上が必須ではなかったことから、しばらくの間はPPAに関するルールが曖昧でした。

しかし、2010年4月から企業結合に関する会計基準等で、法律上の権利など第三者に譲渡可能な無形資産は、取得原価の配分の対象として定められるようになったことから、PPAによる評価が重要視されているのが現状です。

監査の厳格化に伴い、ますますPPAへの対応が求められるようになるでしょう。

3.PPAの考え方

PPAの考え方

PPAは、被買収企業の貸借対照表にもとづいて資産状況を整理するのが基本的な考え方です。

M&Aによって企業買収が行われた場合の仕訳は以下のとおりです。

買い手は被買収企業の諸資産、諸負債を時価評価して取得する形となります。

たとえば、時価で評価した結果、諸資産が1,000、諸負債が600で、実際に支払った現金が400だった場合は、以下のような仕訳になります。

借方 貸方
諸資産(1,000) 諸負債(600)
  現金(400)

ただし、上記のように諸資産・諸負債の時価と払込金額が貸借一致するケースは実務上ほぼあり得ません。

実際に支払った対価が諸資産と諸負債の差額よりも多いもしくは少ない場合がほとんどのケースとなります。

時価で評価した結果、諸資産が1,200、諸負債が300に対し、買い手が1,000の現金支出をした場合、仕訳は以下のようになります。

借方 貸方
諸資産(1,200) 諸負債(300)
  現金(1,000)

この場合、借方が1,200に対して貸方の合計が1,300となっているので、このままでは貸借が一致しません。

そこで、簿記上では、借方と貸方の差額を「のれん」という項目で計上します(借方のほうが金額が多い場合は「負ののれん」を計上)。

この場合、借方と貸方の差が100あるため、以下のように仕訳することとなります。

借方 貸方
諸資産(1,200) 諸負債(300)
のれん(100) 現金(1,000)

ただし、のれんの項目には無形資産が含まれない点に注意しなければなりません。

たとえば、売り手が有形資産(目に見える資産)とは別に、著作権などの知的財産を所有していた場合は、諸資産やのれんとは異なる項目で計上する必要があります。

仮に、時価で評価した結果、無形資産が50だった場合は、のれんとは別に以下のように仕訳しなければなりません。

借方 貸方
諸資産(1,200) 諸負債(300)
無形資産(50) 現金(1,000)
のれん(50)  

『諸負債(300)+現金(1,000)-諸資産(1,200)+無形資産(50)=のれん(50)』となるため、上記のような仕訳ができます。

無形資産がある場合は、諸負債と現金の合計から諸資産と無形資産の合計を差し引いた残りをのれんとして計上しましょう。

この「のれん」とその他の無形資産を分けて認識・評価する概念がPPAとなります。

4.のれんと無形資産を分ける理由

のれんと無形資産を分ける理由

PPAにおいて、なぜのれんと無形資産を分けなければならないのか疑問に思われる方も多いかもしれません。

仕訳におけるのれんとは広義の意味で使われており、超過収益力(企業経営の過程で得た潜在的な企業価値)を表していますが、この中にはブランド価値や顧客リスト、技術上の権利、熟練した職人などが含まれています。

これらの無形資産をそれぞれの資産として明確にし、企業の評価をより具体的にするために、のれんと無形資産を分ける作業が求められます。

のれんと無形資産を分けるのは、のれんと無形資産では減価償却資産の耐用年数が異なるからです。

のれんや無形資産を経費として計上する場合、耐用年数で各年に費用配分する形となります。

この場合、のれんを認識した企業結合会計の仕訳日を起算し、使用開始日から効用喪失日までの期間(耐用年数)中、毎年分けて費用処理していきます。

たとえば、特許権を20万円で取得し、5年の耐用年数とした場合、一年で20万円の経費を計上するのではなく、毎年4万円の経費計上を5年かけて行うのが償却の考え方です。

減価償却をする場合、耐用年数が重要になるのですが、のれんと無形資産では最長年数が異なります。

のれんは最長20年かけて減価償却できますが、無形資産の耐用年数は種類や内容によってさまざまです。

意匠権は7年、商標権は10年、水道施設利用権は15年といった指針が定められているもの以外にも、PPAでは個別の無形資産の耐用年数を判別する形となり、その種類ごとに費用償却を行います。

無形資産をのれんに含めて減価償却すると、無形資産とのれんを分けて償却する場合とは各期に計上される償却費用が異なるため、正しい期間損益計算ができなくなってしまいます。

そのため、PPAではのれんと無形資産を正確に分けることが求められるのです。

5.PPAのプロセス

PPAのプロセス

具体的にPPAでは、どのようなプロセスで行われるのか説明します。

PPAの会計処理では以下のような流れで行います。

  1. 無形資産の認識
  2. 無形資産の測定
  3. 無形資産の評価

のれんに無形資産が含まれているのか、無形資産をどうやって評価するのか、無形資産がどのような評価結果になるのかを考えるのがPPAの一連の流れです。

PPAをする際の参考にしてみてください。

(1)無形資産の認識

まずは、どのような無形資産があるのか認識することから始めます。

減価償却に影響が生じるため、無形資産を適格に把握することがこのステップでは特に大切です。

無形資産に該当せず、のれんに含まれるものを把握しておけば、スムーズに無形資産の認識を進められます。

#1:無形資産の認識基準

無形資産を識別する上で、日本基準とIFRS(国際財務報告基準)の二つの基準があります。

どちらも無形資産を識別する上で活用されている基準ですが、大きな違いは無形資産が分離できるかどうかに基準を置いているか否かです。

まず、日本基準では、分離して譲渡できる無形資産のみ無形資産として認識されます。

つまり、無形資産であったとしても、分離して譲渡できないものであれば、無形資産として認識しません。

日本基準が定める無形資産では、独立した価格を合理的に算定できるものとされており、無形資産の金銭的価値が企業結合の目的の一つになりうる場合に、無形資産として取り扱われます。

一方、グローバル基準のIFRSでは、分離して譲渡可能かどうかについては深く問われません。

譲渡可能の有無を問わず、契約もしくは法律上の権利から生じている(契約や法律に保護されている)無形資産は、無条件で無形資産として認識されます。

そのため、日本基準よりも無形資産の認識基準が緩いのが特徴です。

契約や法律上の権利外から生じている(契約や法律で保護されていない)無形資産の場合は、分離可能であれば問題なく無形資産として認識されます。

二つの基準を比べると、日本基準の方が基準は辛めですが、どちらの基準も分離可能なものであれば、無形資産として認識することが可能です。

#2:無形資産の具体例

無形資産にはどのような種類があるのか具体的な例を挙げて説明します。

一般的に、無形資産の種類は以下の4つに分類されることが多いです。

  1. マーケティング関連
  2. 契約関連
  3. 技術関連
  4. 顧客関連

それぞれ表にまとめたので、無形資産の認識をするときの参考にしてみてください。

①マーケティング関連
商標・商号 ・商品の名称、ロゴ、シンボルの使用権利
・ビジネスの個別認識できる名称、ロゴ、シンボルの使用権利
団体商標・サービスマーク、証明マーク ・組織に所属していることを証明する権利
・サービスを個別認識できる名称、ロゴ、シンボルの使用権利
商標上のデザイン ・製品の装飾デザイン

マーケティング関連で無形資産に該当するほとんどのケースは、商標・商号・ブランドです。

また、組織やサービス、商品のデザインに関する権利にも無形資産が該当することもあるので、これらの種類は把握するようにしましょう。

②契約関連
ライセンス・ロイヤリティ、スタンドスティル条項 ・ライセンス契約やロイヤリティ契約
・一定期間、特定の営業行為を禁止できる契約
営業に関する契約(経営・サービス・納入・建設・広告等) ・契約に基づいて、特定のサービスや商品を受けることができる契約
・特別価格でサービスや商品が支給される契約
フランチャイズ契約 ・特定商標等を用いて営業できる権利
リース契約 ・仮受人としての地位
各種利用権利 ・道路、水利、空気、鉱業、伐採などの利用権
営業許可・放映権 ・特定のルールに基づいて営業できる権利
・業法・通信法に基づいて特定帯域を使用できる権利
建設許可 ・特定地域に特定構造物を建設できる権利

会社はさまざまな契約のもとで営業しているため、企業結合が実施された場合、あらゆる権利が移動することになります。

上記の権利は、無形資産として認識されるので、売り手側がどのような権利を保有しているか明確にしておくことが大切です。

③技術関連
特許取得技術 ・発明品の製造、使用、販売を一定期間保証する権利
特許申請中・特許未申請技術 ・法律で保護されていないが、固有の価値を保有する技術
ソフトウェア ・コンピュータープログラム、プロシージャ、資料等
データベース ・特定の情報の集積体系
研究開発 ・支配、経済的便益、測定可能性、実在性、未完成の5つを満たす開発段階のプロジェクト

基本的には、特許権や特許を受けた技術が無形資産として認識されることが多いです。

また、ソフトウェアやプログラム、研究内容も無形資産に含まれます。

④顧客関連
顧客リスト ・ビジネスとして活用できる顧客情報(名前、住所、電話番号等)
顧客との契約 ・顧客との締結した契約
受注残高 ・未納の商品やサービス
契約外の顧客関係 ・契約を結んでいないが関係のある顧客

ビジネスとして収益の起点となっている顧客との関係は、無形資産に該当する可能性が高いです。

収益の発生には顧客が必須なので、顧客関係も価値があると判断されます。

ただし、すべての顧客関係が無形資産に該当するわけではないので、ビジネスとして必要かどうかで判断しましょう。

(2)無形資産の測定

無形資産の認識が済んだら、測定の工程に移ります。

具体的には無形資産をどのように評価するかを決めることがメインです。

先ほど紹介したように、無形資産にはさまざまな種類があるため、同じ方法で適切に評価することはできません。

そのため、評価に入る前に、無形資産ごとの評価方法を選択するのが一般的です。

測定上のポイントにおいて押さえておくべき点は、以下の2つです。

  1. 公正価値を意識する
  2. 評価アプローチを選択する

適格に評価する上で重要なポイントなので、一通り目を通しておきましょう。

#1:公正価値を意識する

無形資産の評価において重要なのが公正価値です。

公正価値とは、市場参加者間の秩序ある取引によって適正とされている価格のことで、その市場での相場を指します。

つまり、無形資産を評価する際は、市場参加者の視点で合理的に算定しなければなりません。

そのため、買い手が恣意的な価格で評価することができない点を押さえておきましょう。

#2:評価アプローチを選択する

無形資産の評価方法は主に3つあります。

  1. インカムアプローチ
  2. マーケットアプローチ
  3. コストアプローチ

無形資産ごとにどの評価方法でアプローチするか決めなければなりません。

①インカムアプローチ

インカムアプローチは、無形資産の評価方法としてもっとも利用されている手法です。

算定方法はいくつかあり、たとえば、以下のような方法で評価することが可能です。

利益分割法 無形資産が使用されている事業部門の全体の利益やキャッシュ・フロー等に対して無形資産がどのくらい寄与しているかを見積もって評価する方法
企業価値残存法 無形資産が使用されている事業価値から、運転資本の時価や当該事業のために使用されている有形資産の時価及び他の無形資産の時価を控除して無形資産を評価する方法
超過収益法 無形資産が使用されている事業利益から、当該無形資産外から発生する想定利益を差引いて無形資産を評価する方法
ロイヤリティ免除法 自社で保有している特許や商標等の無形資産を活用し、第三者からの使用許諾によるロイヤリティ・コストを得ると仮定した場合に発生する価額を算定し無形資産を評価する方法

評価方法によって無形資産の価値が変わる可能性があるため、インカムアプローチを採用する場合は、どの手法を採用するか検討してみましょう。

②マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、対象企業と同業他社の時価総額の比較や、類似の買収事例などを参考にして企業の価値を評価する方法です。

算定方法は主に4つで、無形資産の種類に応じて使い分ける必要があります。

売買取引比較法 当該無形資産と類似の無形資産の実際の売買取引に基づいて無形資産を評価する方法
利益差分比較法 複数の類似事業の中から無形資産を使用している事業と無形資産を使用していない事業を選定し、無形資産を使っている企業が出した利益と無形資産を使用していない企業の利益の差額に資本還元率を適用して無形資産を評価する方法
概算法 無形資産の売買において採用率が高い一定の経営指標と類似する無形資産取引金額をもとに無形資産を評価する方法
市場取替原価法 一般市場における無形資産の再調達原価をその無形資産に関する外部の専門家によって無形資産を評価する方法

マーケットアプローチは、インカムアプローチと比べて過去の事例を参考にして算定する傾向が強いです。

ただし、買い手にとって都合の良い同業他社の情報が見つかることはまれであり、実務上ではインカムアプローチが採用されるケースがほとんどです。

③コストアプローチ

コストアプローチは、無形資産を再度取得するためにどのくらいのコストが必要なのかを算定して無形資産を評価する方法です。

基本的には、以下の2つの方法が利用されています。

再調達原価法 当該無形資産と全く同じ効用を有する無形資産を再調達するためにかかるコストを算定して無形資産の価値を評価する方法
複製原価法 当該無形資産と全く同じ複製を製作する際にかかるコストを算定して無形資産の価値を評価する方法


人的資産を評価するときに採用される傾向があります。

熟練の技術者がいた場合、同様の技術者を採用し、同様の技術水準まで育成するにはどれぐらいのコストがかかるか、試算することもあります。

ただし、特定技術者に対して必要となる採用の原価や、育成の方法がすべてそろっている状態はまれであり、何らかの測定上の変数や見積り計算が介在することは避けられません。

この点は監査人によっても判断が異なる点であり、論点として挙がる事項になります。

(3)無形資産の評価

各手法を用いて無形資産を評価します。

このときに特に意識すべきポイントは以下の3つです。

  1. 無形資産の相互の関係性を考慮する
  2. 評価基準日時点の価値を評価する
  3. 耐用年数を検討する

これらのポイントを押さえて、適正な評価をしましょう。

#1:無形資産の相互の関係性を考慮する

無形資産が複数ある場合は、相互に関係性がないか確認しましょう。

たとえば、ブランド力が大きく、特定の商品の特許権を所有している場合は、特許権だけでなく影響力を踏まえた上で評価する必要があります。

相乗効果が期待できる場合は、収益獲得に大きく貢献することになるため、相互の関係性に注目することは大切です。

#2:評価基準日時点の価値を評価する

無形資産を評価する際は、評価時点の価値を算定することが重要です。

将来獲得できる可能性のある顧客や契約、製品等からのキャッシュフローは無形資産ではなく、のれんとして計上することになります。

評価時点において既に存在する顧客や契約、製品等から生じるキャッシュフローを評価対象としましょう。

#3:耐用年数を検討する

無形資産ごとに耐用年数を検討することも重要です。

耐用年数によって減価償却処理が変わります。

実務内容に影響するため、分析を行い、適切な耐用年数を設定しましょう。

6.のれん・無形資産を評価するときの注意点

のれん・無形資産を評価するときの注意点

のれんや無形資産を評価するときに注意すべき点があります。

それは、評価はどうしても見積り計算が避けられないため、評価者によっては評価内容が異なる点です。

価値を計算するための収益の根拠や変数の設定は人によってさまざまで、同じ無形資産でも評価結果が異なる場合が発生します。

見積りの根拠や耐用年数の考え方においては監査で指摘を受けたり、論点になることが実務上よく見受けられます。

監査対応のため、適切な論理や考え方を説明できるようにするためには、専門家に相談することをおすすめします。

Univisでは、PPAに関する相談を受け付けておりますので、よろしければお気軽にご相談ください。

まとめ

PPAは、M&Aによる企業結合をした場合に必須の会計処理です。

のれんと無形資産の識別が重要で、無形資産価値を適切に評価しなければなりません。

無形資産の種類によって評価方法は異なるので、上手く使い分けることが求められます。

ただし、PPAにおける会計処理を独自に実施することは非常に高度な知識が求められるため、公認会計士に相談されることをおすすめします。