PPAがM&Aに必須といわれる理由とは?無形資産に認識される事項や耐用年数

株価算定

「PPAがM&Aに必須なのはなぜなのか」
「PPAにおける会計処理はどのような流れで行われるのか」

M&Aにより企業を買収した方の中には、PPAについて詳しく調べている方もいるのではないでしょうか。

また、ディールの進行において対象企業の無形資産をヒアリングできており、プレPPAを検討される方もいらっしゃいます。

本記事では、PPAがM&Aに必須と言われる理由をはじめ、PPAの課題や重要項目である無形資産の概要、PPA処理の流れについて紹介します。

1.PPAがM&Aに必須と言われる理由

PPAがM&Aに必須と言われる理由

PPA(取得原価の配分)がM&Aに必須と言われる理由は、M&Aによって買収した企業の資産価値を評価しなければならないからです。

そもそもPPAとは、企業が資産を取得した際に行われ、のれんと無形資産の価値を個別に評価する目的で実施します。

のれんと無形資産では耐用年数が異なることから、正しい期間損益計算を行うために、個別に取得原価の配分を行うこととなるのです。

M&Aで企業を取得した場合、PPAにおける会計処理で取得した資産の評価を個別に明確にしなければなりません。

2.PPAの課題

PPAの課題

M&Aの活性化によってPPAの注目度が確かに上がってきていますが、PPAの情報を得られる媒体は未だ少ない傾向があります。

M&Aを検討する企業が増加傾向にあり、のれんや無形資産の評価プロセスの理解が必要とされています。

PPAにおける会計処理が適切に行われていないと、監査において指摘を受けることとなります。

外部の監査から耐えうるような適切な会計処理、耐用年数の考え方を根拠とともに提示することが求められるのです。

M&A時に求められる企業結合会計の考え方や仕訳例、全体の流れは以下の記事で解説しておりますので、合わせてご参照ください。

2022.12.31

M&Aで必須のPPAとは?日本の現状とPPAの考え方、主な手順を解説

3.PPAで無形資産として認識される事項・耐用年数

PPAで無形資産として認識される事項・耐用年数

PPAでは無形資産を認識し、種類ごとに減価償却するために耐用年数を設定しなければなりません。

ここでは何が無形資産に該当するのか、また種類ごとの耐用年数について紹介します。

(1)無形資産として認識される事項

無形資産にはさまざまな種類があるので、無形資産の形状として論点とされる以下の4つを押さえておきましょう。

  • マーケティング関連
  • 契約関連
  • 技術関連
  • 顧客関連

各種類の具体例を以下の表にまとめたので、何が無形資産として認識されるのか確認しておきましょう。

マーケティング関連 ・商品の名称、ロゴ、シンボルの使用権利
・ビジネスの個別認識できる名称、ロゴ、シンボルの使用権利
・組織に所属していることを証明する権利
・サービスを個別認識できる名称、ロゴ、シンボルの使用権利
・製品の装飾デザイン
契約関連 ・ライセンス契約やロイヤリティ契約
・一定期間、特定の営業行為を禁止できる契約
・契約に基づいて、特定のサービスや商品を受けることができる契約
・特別価格でサービスや商品が支給される契約
・特定商標等を用いて営業できる権利
・道路、水利、空気、鉱業、伐採などの利用権
・特定のルールに基づいて営業できる権利
技術関連 ・発明品の製造、使用、販売を一定期間保証する権利
・法律で保護されていないが、固有の価値を保有する技術
・コンピュータープログラム、プロシージャ、資料等
・特定の情報の集積体系
・開発段階のプロジェクト
顧客関連 ・ビジネスとして活用できる顧客情報(名前、住所、電話番号等)
・顧客との締結した契約
・未納の商品やサービス
・契約を結んでいないが関係のある顧客

(2)無形資産の種類ごとの耐用年数

無形資産は、種類によって耐用年数が異なります。

公表されている無形資産の法定耐用年数は、以下のとおりです。

種類 耐用年数
漁業権 10
ダム使用権 55
水利権 20
特許権 8
実用新案権 5
意匠権 7
商標権 10
ソフトウェア:複写して販売するための原本 3
ソフトウェア:その他のもの 5
育成者権:種苗法4条2項に規定する品種 10
育成者権:その他 8
営業権 5
専用側線利用権 30
鉄道軌道連絡通行施設利用権 30
電気ガス供給施設利用権 15
熱供給施設利用権 15
水道施設利用権 15
工業用水道施設利用権 15
電気通信施設利用権 20

無形資産でよく認識されることが多いのは、特許権、意匠権、商標権、営業権などです。

ただし、上記にあげられていない中でも、個別の無形資産の内容を判別し、独自に耐用年数を求める流れは実務上見受けられます。

個別の無形資産の耐用年数が具体的に何年になるか判別することは専門家でもよく論点にあがるほど高度な知識が求められるため、詳しくは専門家である公認会計士に相談されることをおすすめします。

4.PPAにおいてのれんとして認識される事項

PPAにおいてのれんとして認識される事項

PPAでのれんとして認識されるのは、基本的に無形資産として認識されなかったもの全般です。

そのため、のれんとして認識される事項を押さえるよりも無形資産として認識される事項を覚えることをおすすめします。

無形資産として認識し、測定・評価する流れについては次の章で説明するので、チェックしてみてください。

5.PPAにおける会計処理の流れ

PPAにおける会計処理の流れ

PPAにおける会計処理の流れは以下のとおりです。

  1. 無形資産の認識
  2. 無形資産の測定
  3. 無形資産の評価

PPAにおける会計処理では、いかに無形資産を特定し、正確に評価するかが鍵になってきます。

全体の流れをご説明します。

(1)無形資産の認識

はじめに、無形資産の認識から行います。

のれんと無形資産の識別ができなければ、具体的な企業価値を評価することができません。

無形資産を認識するときは、日本基準とIFRS(国際財務報告基準)の二つの基準のどちらかに則って認識することとなります。

採用する基準によって無形資産として認識する・認識されない場合があるので、両者の特徴を押さえておきましょう。

#1:日本基準

日本基準は、分離して第三者に譲渡(売却)できるものを無形資産として認識します。

そのため、分離することができないものであれば、PPAの処理上、無形資産として計上することはできません。

法律に保護されている権利でも譲渡できないものは、無形資産に該当しないことを押さえておきましょう。

#2:IFRS

国際的な基準であるIFRSでは、日本基準よりもゆるやかな規定になっています。

日本基準では譲渡可能の有無が問われますが、IFRSは法律上の権利であれば、譲渡ができないものでも無形資産として認識することが可能です。

日本基準では無形資産として認識できないものでも、IFRSであれば無形資産として認識されることがある点を押さえておきましょう。

なお、法律上の権利ではなくても譲渡可能であれば、IFRSでも日本基準と同様に無形資産として認識されます。

(2)無形資産の測定

無形資産の認識の次は、測定を行います。

主に、無形資産の評価の手法を決める工程です。

無形資産にはあらゆるものが存在し、種類に応じて評価方法を使い分ける必要があります。

特に採用される評価方法は以下の3つです。

  1. インカムアプローチ
  2. マーケットアプローチ
  3. コストアプローチ

どのような評価方法があるのかチェックしておきましょう。

#1:インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来の利益実現のリスクを考慮して算出した割引率で、将来的に得られる経済的利益を現在価値に割り戻す(割引する)ことで評価する方法です。

3つの評価方法の中で、最も利用されることが多い傾向があります。

インカムアプローチにはさまざまな手法がありますが、押さえておくべき方法は以下の4つです。

利益分割法 無形資産が使用されている事業部門の全体の利益やキャッシュ・フロー等に対して無形資産がどのくらい寄与しているかを見積もって評価する方法
企業価値残存法 無形資産が使用されている事業価値から、運転資本の時価や当該事業のために使用されている有形資産の時価及び他の無形資産の時価を控除して無形資産を評価する方法
超過収益法 無形資産が使用されている事業利益から、当該無形資産外から発生する想定利益を差引いて無形資産を評価する方法
ロイヤリティ免除法 自社で保有している特許や商標等の無形資産を活用し、第三者からの使用許諾によるロイヤリティ・コストを得ると仮定した場合に発生する価額を算定し無形資産を評価する方法

#2:マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、同業他社の時価総額を比較したり、類似の買収事例などを参考にしたりして企業の価値を評価する方法です。

基本的な方法として、以下の4つを押さえておきましょう。

売買取引比較法 当該無形資産と類似の無形資産の実際の売買取引に基づいて無形資産を評価する方法
利益差分比較法 複数の類似事業の中から無形資産を使用している事業と無形資産を使用していない事業を選定し、無形資産を使っている企業が出した利益と無形資産を使用していない企業の利益の差額に資本還元率を適用して無形資産を評価する方法
概算法 無形資産の売買において採用率が高い一定の経営指標と類似する無形資産取引金額をもとに無形資産を評価する方法
市場取替原価法 一般市場における無形資産の再調達原価をその無形資産に関する外部の専門家によって無形資産を評価する方法

マーケットアプローチは、過去の事例や競合他社の事例をもとに評価することとなりますが、評価者にとって都合の良い競合や過去のデータが見つかることはまれです。

そのため、マーケットアプローチが適用できる対象は限定的なものとなります。

#3:コストアプローチ

コストアプローチは、実際に無形資産を取得するために必要なコストを算定して評価する方法です。
主な方法として、以下の2つがあります。

再調達原価法 当該無形資産と全く同じ効用を有する無形資産を再調達するためにかかるコストを算定して無形資産の価値を評価する方法
複製原価法 当該無形資産と全く同じ複製を製作する際にかかるコストを算定して無形資産の価値を評価する方法

人的資産を評価する場合に用いられることが多い手法ですが、マーケットアプローチ同様、過去の事例がデータとして揃っていることは実務上まれであり、こちらも限定的に適用されるケースが多いです。

(3)無形資産の評価

次は無形資産ごとに評価し、取得原価を配分することとなります。

無形資産をなるべく適切に評価するためには、以下の3つのポイントを意識しておくことが大切です。

  1. 無形資産の相互の関係性を考慮する
  2. 評価基準日時点の価値を評価する
  3. 耐用年数を検討する

無形資産の評価をするときは、これらのポイントを押さえて算定していきましょう。

#1:無形資産の相互の関係性を考慮する

無形資産が複数ある場合は、相互に関係性がないか確認することが重要です。

基本的には、個別に評価することが多いですが、無形資産によっては相互作用が働く場合があります。

たとえば、企業のブランド力(商標権)と製品の特許権は別の種類ですが、商標権によって特許権の価値が大いに高まる可能性が高いです。

企業のネームバリューが大きければ、それだけ商品から得られる収益も大きくなります。

そのため、相互の関係性がある場合は、個別で評価するよりも価値が高まる場合があることを押さえておきましょう。

#2:評価基準日時点の価値を評価する

無形資産を評価するときは、評価時点の実際の価値を算定しなければなりません。

種類によっては、現在ではなく将来に大きな収益をもたらすものがあります。

しかし、不確定な将来のことまで評価に加えると適切な評価が困難になるため、評価時点の無形資産の価値を算定することが求められます。

#3:耐用年数を検討する

無形資産を計上するときは、耐用年数を検討することがポイントです。

先に述べたように、無形資産ごとに法定耐用年数は定められています。

耐用年数によって減価償却処理が変わるため、しっかり分析をして適切な耐用年数を設定するように意識しましょう。

まとめ

PPAはM&Aを実施する上で避けては通れません。

今回紹介した無形資産の種類や認識方法、評価方法を参考にPPAの全体の流れを頭に入れておきましょう。

なお、PPAの実務に関しては高度な専門的な知識が必要なので、なるべく公認会計士に相談することをおすすめします。

Univisでは、PPAに関する相談を受け付けておりますので、よろしければお気軽にご相談ください。