「M&Aの業務に携わるようになったけど、デューデリジェンスって何かわからない…」
「M&Aを考えているが、デューデリジェンスってどのように進めればいいんだろうか…」
このように悩んでいませんか?
この記事では、デューデリジェンス(Due diligence)について、次の3点からわかりやすく解説します。
- デューデリジェンスの用語説明
- デューデリジェンスの種類について
- デューデリジェンスの手続きの流れ・注意点について
この記事を読んで、デューデリジェンスについてしっかりと知識を身につけましょう。
1.デューデリジェンスとは
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、投資やM&Aの時に、投資先にどのようなリスクがあるのか、投資に見合った価値があるのかを適正に把握するために事前におこなう、一連の調査のことを指します。
デューデリジェンスにおいて、公認会計士、弁護士などの専門家が、買収対象企業の財務状況、経営体制、法務面でのリスク等を総合的に調査し、適正な投資先の資産価値を評価します。
主に、投資する側がデューデリジェンスを実行し、財務諸表や契約書などが適正に処理されているか、資産が確かに存在しているかなどが担保され、隠れたリスクを把握することが可能となります。
そのため、デューデリジェンスは、M&Aや投資を行う際に必ず行うものであり、適切な意思決定をサポートするものです。
2.デューデリジェンスの目的
デューデリジェンス行う目的は、投資先の価値を適正に把握するためです。
さらに具体的に説明すると、目的は主に次の4点となります。
- 正確な価値を評価できる
- 買収後の経営に役立てることができる
- 利害関係者からの訴訟リスクを回避できる
- 契約段階でリスク回避できる
それでは、それぞれについて詳しく解説します。
目的1.正確な価値を評価できる
潜在的な債務(保証債務などの偶発債務)など、会計上の帳簿に計上されていない債務・リスクを洗い出し、正確に企業価値を評価できます。
そのため、実態を盛り込んで企業価値を評価することができ、適切に価格設定をすることができます。
目的2.買収後の経営に役立てることができる
買収先の企業をしっかり調査することで、買収後の経営を適切に実行できます。
買収後の自社とのシナジー価値の算定や、市場における買収先の価値を適正に把握することができます。
目的3.利害関係者からの訴訟リスクを回避できる
買収前に実行することで、「経営陣は買収先を適正に評価しなかった」として、株主等の利害関係者から損害賠償請求されるリスクを回避することができます。
もし買い手の経営陣が適切に評価を行わない場合、売り手に騙されて、高掴みしてしまうリスクが高まります。
そのため、デューデリジェンスは、買い手側の『適正な注意』と呼ばれるのです。
目的4.契約段階でリスク回避できる
デューデリジェンスによってリスクを事前に洗い出し、事前に契約に含めることで、リスクを回避することができます。
万一リスク条件に同意が得られない場合でも、価格交渉に優位に役立てることも可能となってきます。
3.デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスと一言でいっても、多様なデューデリジェンスがあります。
ここでは、特に基本的な以下6つのデューデリジェンスと、その他のデューデリジェンスについて、解説します。
- 事業デューデリジェンス(Business Due Diligence)
- 財務デューデリジェンス(Financial Due Diligence)
- 税務デューデリジェンス(Tax Due Diligence)
- 法務デューデリジェンス(Legal Due Diligence)
- 人事デューデリジェンス(HR Due diligence)
- ITデューデリジェンス(IT Due Diligence)
この章を読んで、デューデリジェンスについて理解を深めましょう。
3-1.事業デューデリジェンス(Business Due diligence)
事業デューデリジェンスでは、買収先企業の市場およびその市場における対象会社の価値を分析し、M&Aを実行するに値するかどうかを判断するものです。
具体的には、「外部環境分析」と「内部環境分析」に分けて実施します。
外部環境分析では、PEST分析・5フォース分析などのマクロな視点でのフレームワークを活用します。
内部環境分析では、SWOT分析・バリューチェーンモデルなどの企業の現在のポジションを適正に把握するためのフレームワークを活用します。
これらのフレームワークを駆使し、事業の将来性・実現可能性の判断材料となる情報を収集することが目的です。
3-2.財務デューデリジェンス(Financial due diligence)
財務デューデリジェンスでは、対象会社の財務状態について詳細に調査し、経理処理や取引に不正がないかどうかを確認します。
具体的には、会計方針の確認、外部調査の概要、決算書(B/S、P/L)の調査などが行われます。
これらの調査により、キャッシュ・フローや収益性などを正確に把握します。
投資先の収益面での将来性、債務が適正かどうかのような財務面でのリスクを洗い出すことが目的です。
3-3.税務デューデリジェンス(Tax Due Diligence)
税務デューデリジェンスでは、投資対象先のM&A等に伴って、投資先の税務リスクがないかを確認します。
具体的には、法人税等を適切に納税しているか、組織再編等に伴う税金を適切に対処しているか、繰越欠損金や含み損はあるかどうかなど、リスク事項を洗い出します。
もし過去に税務処理が誤っている場合、M&A後に追加徴税などのペナルティが課されることもあるので、注意しましょう。
これらの調査により、対象企業の税務上の問題がないかを、専門的な判断をもとに把握することが目的です。
3-4.法務デューデリジェンス(Legal Due Diligence)
法務デューデリジェンスでは、対象企業が締結した契約や保有事業の権利、債権債務などについて、法務上リスクがないか洗い出します。
具体的には、会社組織・株式、関係会社、許認可、契約、資産・負債、知的財産権、人事・労務、訴訟・紛争、環境など範囲は幅広く調査を実行します。
法務上のリスクを抱えている場合、訴訟や賠償金の支払いなど、M&A後の事業に大きな影響を与えるので、必ず行いましょう。
帳簿上からは読み取れない対象会社の訴訟や紛争を見出し、未然にリスクを防ぐことが目的です。
3-5.人事デューデリジェンス(HR Due diligence)
人事デューデリジェンスでは、人事制度などM&A後の人事上のリスクの実態を調査します。
具体的には、対象企業の社員構成、年齢、勤続年数、給与・退職金、人材評価制度、経営幹部や組織内の重要プレイヤーの確認、組織文化などを調査します。
これらを調査することで、M&Aでの統合時における異なる人材面でのリスクを事前に把握することができます。
新しい組織体制の下で当初想定している経営統合によるシナジーと企業価値の向上、長期的成長を支えるマネジメントのしくみを適切に構築することを目的とします。
3-6.ITデューデリジェンス(IT Due Diligence)
ITデューデリジェンスでは、M&Aを実施する対象企業のITシステムを調査し、システム上のリスクを洗い出します。
具体的には、財務会計システム、人事労務システム、顧客管理や販売管理システムなど、企業の根幹のシステムの移行が容易にできるか、ライセンスや継続費用に変更は生じないかなどについて精査します。
もしシステム統合が難しい場合、システム調整に多くの工数を必要としてしまうため、統合後の事業に悪影響を与えてしまいます。
統合後のシステムをどのように運用すべきかを適切に判断することが目的です。
3-7.その他のデューデリジェンス
上記に説明した6つの基本的なデューデリジェンスの他に、以下の5つのデューデリジェンスもあります。
- 環境デューデリジェンス(Environmental Due Diligence)
- 顧客デューデリジェンス(Customer Due Diligence)
- 知的財産デューデリジェンス(Intellectual property Due Diligence)
- 不動産デューデリジェンス(Real estate Due Diligence)
- 技術デューデリジェンス(Technical Due Diligence)
順に説明していきます。
#1:環境デューデリジェンス(Environmental Due Diligence)
環境デューデリジェンスでは、土壌汚染のような土地や建物の環境面でのリスクを調査します。
具体的には、国内外問わず、不動産や投資先企業に対し、サプライチェーン、環境関連の許認可の確認、環境管理体制等を確認します。
環境問題は世界的に意識が高まってきており、国内だけでなく、海外での投資でも意識する必要があります。
そのような背景の中、投資対象の物件や企業の価値・リスクを正しく評価するにあたり、大変重要な調査となっております。
投資先の工場汚染調査など、環境面でのリスクを適切に判断することが目的です。
#2:顧客デューデリジェンス(Customer Due Diligence)
顧客デューデリジェンスは、他のデューデリジェンスとは異なり、特に個々の顧客を対象にしたデューデリジェンスです。
顧客デューデリジェンスでは、金融機関等が顧客と取引を行うにあたり、顧客情報を調査するものです。
具体的には、顧客がどのような人物・団体で、団体の実質的支配者は誰か、どのような取引目的を有しているか、資金の流れはどうなっているかなど、顧客に係る基本的な情報を調査します。
もしマネーロンダリングや反社会的組織への資金提供のリスクが高いと判断した場合は、外国PEPs(Politically Exposed Persons)や特定国等(イラン・北朝鮮が指定されている)に係る取引を行う顧客も含め、より厳格に実行する必要があります。
商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客属性等に対する顧客情報を評価し、顧客にかかわるリスクを適切に評価することが目的です。
#3:知的財産デューデリジェンス(Intellectual property Due Diligence)
知的財産デューデリジェンスでは、投資先企業が持つ特許や商標、著作権、営業秘密やライセンス契約などの知的財産に関わる調査する。
具体的には、投資先企業だけでなく、競合も含めたR&Dテーマや特許文献、ライセンス収入などを調査・分析し、事業上の知的財産リスクの定性面・定量面で評価します。
知的財産の調査には、法令や判例、慣習など多岐にわたる高度な専門知識が必要とされます。
投資先企業が持つ特許や商標など、目に見えない知的財産に関わる正確に把握することが目的です。
#4:不動産デューデリジェンス(Real estate Due Diligence)
不動産デューデリジェンスでは、不動産を取得する前に行うもので、物件に関する情報の信頼性について調査します。
具体的には、建物診断、有害物質調査等の環境・地震リスク調査、マーケット調査、不動産の権利関係に関する調査等を実行します。
建物の外観・状態の物理的調査、所有権利などの法務的な調査、地域マーケットなどの経済的な側面での調査など、多岐にわたる調査を行うことが特徴です。
不動産投資や不動産証券化を行う際に実行し、物件のリスク・リターンを正確に把握することが目的です。
#5:技術デューデリジェンス(Technical Due Diligence)
技術デューデリジェンスでは、企業のコア技術や製品、技術アライアンスなど、技術面での評価を実行します。
具体的には、コアとなる技術の特定、競合企業との比較優位性の測定、内部や外部にある他の技術とのシナジー効果、製品開発の徹底的な分析を行います。
産学連携による研究開発プロジェクトなどの知財とも深いかかわりのあるデューデリジェンスであることも、大きな特徴です。
投資先企業の技術や製品開発について、正確に評価することが目的です。
4.デューデリジェンスの流れ
ここまでたくさんのデューデリジェンスの種類を紹介しました。
これらのすべてを実施することが理想ですが、時間・社内のリソースに限りがあるため、すべてを進めることは難しいです。
そのためこの章では、デューデリジェンスの実施方法について、詳しく説明します。
デューデリジェンスを実行する流れは次の通りです。
- 優先順位をつける
- 専門機関へ依頼する
- 専門機関との調査範囲等の打ち合わせ
- 進捗状況の確認
- 報告書の確認
それでは、それぞれ詳しく解説します。
手順1.優先順位を付ける
どのデューデリジェンスを行うか、優先順位をつけましょう。
デューデリジェンスにおいて、目的を持たずに開始すると、公認会計士費用や弁護士費用など多くのコストを費やしてしまいます。
そのため、まずは決算書などの基礎書類の確認、案件概要の理解をしっかりと行い、どの分野を深堀して確認すべきか計画を立てましょう。
企業の特徴に合わせて優先順位を付け、デューデリジェンスを進めていくことが重要です。
手順2.専門機関へ依頼する
デューデリジェンスの優先順位に従って、専門機関を選定・依頼しましょう。
特に、専門家を選ぶ際には、外部のアドバイザーと相談することをおすすめします。
なぜなら、顧問を務める公認会計士、税理士などの場合、内情を知っているため、深く切り込めないケースも出てきます。
さらに、現状の分析と課題だけでなく、経営統合後を見据えたコンサルティングもしてくれる専門家に依頼することも重要です。
事前に決めた優先順位に従って、最適な専門家を慎重に判断しましょう。
手順3.専門機関との調査範囲等の打ち合わせ
専門家が決まったあとは、専門家とデューデリジェンスの実施の流れをすり合わせましょう。
委託先の担当者が対象企業を訪問し、帳簿の確認や、社長や社員など関連部署にヒアリングを行い、報告書をまとめます。
そのため、事前にどのような内容を調査したいのか、優先順位、事業の目的と照らし合わせて、依頼しましょう。
手順4.進捗状況の確認
実際に調査が始まった後も、デューデリジェンスが適切に実行されているか確認しましょう。
デューデリジェンスを進めるうちに、調査したい項目内容に修正が必要な場合も出てくることもあります。
調査開始後も、事前に決めた優先順位、事業の目的と照らし合わせて、調査の質を高めましょう。
手順5.報告書の確認
デューデリジェンスが完了した後、報告書を確認しましょう。
事前に決めた確認事項への調査がしっかりと行われているか、M&Aに対して委託先はどのような評価をしているのかをしっかりと確認しましょう。
5.デューデリジェンスの注意点
M&Aや投資は莫大な金額が動くため、慎重に行動しなければなりません。
その中で、特に重要な注意点について、解説します。
- 情報漏洩に気を付ける
- タイミングに気を付ける
- 専門家に依頼するべき
この章を読んで、デューデリジェンスを適切に実施しましょう。
注意点1.情報漏洩に気を付ける
デューデリジェンスを行う際は、社員に知られずに作業を進めなければなりません。
なぜなら、デューデリジェンスを行うということは、『対象企業に対してM&Aを実施する』というようなものであり、対象企業内で動揺を生む可能性があるからです。
さらに、デューデリジェンスを行った段階では、M&Aが必ずしも成功すると約束されたものでないからです。
そのため、業者選定をしっかりと行うとともに、営業日以外に作業を進める等の慎重さが必要です。
注意点2.タイミングに気を付ける
M&Aにおいてデューデリジェンスのタイミングは、一般的に、最終条件交渉に移る前に実施されます。
M&Aの可能性が低いタイミングで調査をデューデリジェンスを行い、その情報が漏れた場合、従業員や取引先を失ってしまうリスクがあります。
ですが、デューデリジェンスの開始が遅すぎても、別の買手に先を越されてしまう可能性もあります。
そのため。事前に専門家に適切なタイミングを相談するなど、タイミングについて計画を立てましょう。
注意点3.専門家に依頼するべき
デューデリジェンスを行う場合、早めに専門家に依頼・相談しましょう。
これまで説明したように、デューデリジェンスは広範囲に及び、それぞれ専門性の高い作業です。
そのため、対象企業を自社だけで調査することは不可能であり、時間とコストを浪費することに繋がってしまいます。
時間・コストと比較して、早めに専門家に依頼・相談しましょう。
6.まとめ
M&Aにおいて、デューデリジェンスは不可欠です。
デューデリジェンスを行うことで、対象企業について正確に評価できるだけでなく、統合後のシナジー効果を最大化することも可能です。
一方で、調査項目は多岐にわたり、自社だけですべてを調査することは不可能です。
信頼できる専門家を見つけ、M&Aの効果を最大化しましょう。