クラウンジュエルとは?敵対的買収への有効な防衛作戦を詳しく解説

「自社が望んでいない会社に買収されそうなんだけど、対策ってないのかな?」
「M&A関連で耳にするけど、クラウンジュエルって何?」

このように、買収への対抗策やクラウンジュエルという用語について疑問をお持ちではないでしょうか?

一口に言うと、クラウンジュエルというのは敵対的買収(TOB)に対する対抗策です。

当記事ではクラウンジュエルも含む敵対的買収に対する対抗策をいくつか紹介していきます。

記事を読めば、クラウンジュエルを含む、敵対的買収に対する防衛策を体系的に理解することができます!

1.クラウンジュエルとは

クラウンジュエルとは、敵対的買収を行ってきた企業に対し、自社の価値ある部門や資産、子会社などを第三者にわざと売り払ったり分社化することによって対抗しようとする策のことです。

つまり、自社の重要な部分を切り離すことで、総合的な自社の価値を下げ、敵対的買収から逃れようとする防衛策です。

クラウンは王冠でジュエルは宝石のことです。

敵対的買収の対象をクラウン(王冠)、そこの価値ある部門や資産をジュエル(宝石)と例えたことが由来です。

本来、クラウンジュエルという単語だけだとある会社の魅力ある部門という意味を指します。

しかし、クラウンジュエルというのはクラウンジュエルディフェンス(王冠の宝石防衛)というのが語源で、ディフェンスが省略されてクラウンジュエルと呼ばれるようになっています。

上述した通り、クラウンジュエルは敵対的買収に対する防衛策の1つです。

(1)敵対的買収(TOB)とは

そもそも敵対的買収の意味が分からない方もいると思います。

敵対的買収とは、競争関係にある会社の一方が他方の会社の取締役会の同意を得ずに買収し、それによって経営権を奪い、競争に勝とうとすることです。

敵対的買収は敵対会社の株主総会の同意を得ずに行うのがほとんどで、株式市場で株を集める方法と、株式市場外で集めるTOB(株式公開買い付け)という方法があります。

#1:TOB(株式公開買い付け)

株式市場外で株を集める方法をTOB(株式公開買い付け)といいます。

これはある会社の株式を期間・株数・価格を公開して株式市場外からその会社の株式を不特定多数の株主から集めるという手法です。

ある会社の株が、株式市場内では複数の株主によって完全に独占されていても、株式市場外で一定条件を提示することで特定会社の株を効率的に集めることが可能です。

なお、敵対的買収は多くの場合、敵対的TOBと呼ばれます。

2.クラウンジュエルをする条件

クラウンジュエルを行うにも条件があります。

クラウンジュエルの中にも比較的簡単に行うことのできるものもあれば、発動するのに超えなければいけないハードルが高いものもあります。

発動するのが重いクラウンジュエルと軽いクラウンジュエルについて見ていきましょう。

(1)事業譲渡の場合

クラウンジュエルの中でも重いものは事業譲渡です。

事業譲渡をするときは株主総会の承認を得なければなりません。

事業譲渡というのは会社が行っている事業の一部または全部を第三者に移譲することを指します。

この場合、具体的には株主総会で3分の2以上の賛成を得なければなりません

#1:事業の一部または全部とは?

重要な事業の一部または全部ついては最高裁によれば、以下のような定義となっています。

一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能している財産の全部または重要な一部

分かりやすく言えば、組織化された事業全般のことです。

(2)重要財産譲渡の場合

会社の重要財産を譲渡する際は、取締役会だけで決定することができます。

事業譲渡の時のような株主総会の合意は関係ありません。

したがって、緊急の敵対的買収に対して比較的素早く対応することができます。

(3)子会社の譲渡の場合

子会社の譲渡も敵対的買収に対する対抗策として行っているのならば、クラウンジュエルに含まれます。

敵対会社に子会社を含む財産が渡ってしまうことは大きな損失を伴うので、子会社を第三者に譲渡することは立派な防衛策です。

この場合は株式譲渡という形で子会社を売却することになります。

従来は取締役会で事足りましたが、平成26年の法改正により以下の場合、子会社の譲渡は株主総会の特別決議を必要とするようになりました。(改正会社法467条)

従って、法改正により子会社譲渡は軽いクラウンジュエルから重いクラウンジュエルになったということです。

3.クラウンジュエルの注意点


取締役には、会社法により原則として善管注意義務・忠実義務が課されています。

これらの義務は分かりやすく言えば会社の経営への社会的期待に対する責任を指します。

事業譲渡や重要財産の処分は、この原則に反してしまう可能性があります。

理由は、事業譲渡や重要財産の処分が会社の利益に反する場合、一時的に会社の経営が傾く可能性があるからです。

もう一歩踏み込みこんだ言い方をすると、その場合株主にしわ寄せが来るからです。

そのため、クラウンジュエルを行うという取締役会の決定を株主が退け、会社を訴える可能性もあるのです。

#1:それでもクラウンジュエルをやる場合は?

クラウンジュエルは上記の注意点もあり、現実的な策ではないと言われています。

しかし、どうしてもクラウンジュエルをしなければならない場合はどうすればよいのでしょうか?

そのようなときは、クラウンジュエルを行う目的を厳密に明示し、その上で株主との利害を一致させなければなりません。

逆に言えば株主に対して長期的な利益があることをしっかりと証明することができれば何も問題ありません。

確かにハードルは高いかもしれませんが、敵対的買収により自社が危機的状況に陥る場合、取締役は本気になって取り組まなくてはならない責任があります。

4.クラウンジュエルの事例

日本では、クラウンジュエルを実際に行った事例はありませんが、実行しようとしたとした事例が1つあります。

ニッポン放送は、ライブドアから敵対的買収を仕掛けられた際に、日本放送が持つポニー・キャニオン(フジサンケイグループの大手映像・音楽ソフトメーカー)やフジテレビの株式を売却することをちらつかせました。

ライブドアの買収目的は、ニッポン放送の保有する株式を通して間接的にポニーキャニオンとフジテレビを支配することでした。

これらを売却されればライブドアはニッポン放送を買収する意味がなくなってしまいますので、売却することで買収を止めさせようとしたのです。

実際は、ライブドアはニッポン放送を買収せず、ニッポン放送もそれらの株式を売却しませんでした。

5.その他の敵対的買収防衛策

クラウンジュエル以外にも敵対的買収に対する防衛策が存在します。

具体的にはホワイトナイト、パックマン・ディフェンス、ポイズンピルなどがあります。

これら以外にもゴールデンパラシュートなど他にも防衛策は存在しますが、今回はこの3つを紹介します。

初めて聞いたという方も多いと思いますが、ネーミングは納得できるユーモラスなものばかりなので一度聞けば忘れないでしょう。

それぞれ詳しく説明していきます。

(1)ホワイトナイト

ホワイトナイトとは、敵対的買収を仕掛けられた会社に対し、敵対会社に対抗して友好的に買収対象会社を買収または合併する会社のことを指します。

また、ホワイトナイトは友好的TOBをしてもらうという意味合いもあります。

このネーミングは白馬に乗った騎士(友好的関係にある第三者)が敵に捕らわれた姫(買収の対象会社)を助けるということが由来です。

なお、ホワイトナイトを行う企業は自らを公の場で買収にかけるという大きな覚悟が必要であり、敵対的買収者以外にも別の買収企業を引き寄せる可能性があります。

また、ホワイトナイトを用いた防衛策の具体的内容としては、買収者よりも高い価格でTOBをかける(カウンターTOB)や、対象会社の第三者割当増資を引受けることなどが考えられます。

#1:第三者割当増資とは?

第三者割当増資は、特定の第三者に自社が新たに発行した株式(新株)を買収してもらうことで資金調達をすることです。

取引先や取引金融機関、自社の役職員などの自らと関わりの多い縁故者に引き受けてもらうケースが多いことから、縁故募集と呼ばれることもあります。

会社が所有する自己株式(金庫株)が割り当てられることもあります。

#2:ホワイトナイトの例

2006年に、投資ファンドのスティールが明星食品に対して敵対的TOBを仕掛けたことがありました。

しかし、当時から即席めん業界トップを占めていた日清食品がホワイトナイトとして友好的TOBを実施し見事スティールを退きます。

これにより明星食品は日清食品の完全子会社となりました。

この例では、日清食品がホワイトナイトとなったと捉えることもできますし、明星食品がホワイトナイトを行ったと捉えることもできます。

言葉の使い方は文脈によります。

(2)パックマン・ディフェンス

パックマンディフェンスも敵対的買収に対抗する一つの策であり、敵対的買収を仕掛けてきた企業に対して、逆に買収を仕掛けることです。

この際、多額の資金が必要となる上に、事業を圧迫し、本来は使う必要のない経費を割く必要があるため、株主の合意を得ることが難しくハードルが高いです。

また、買収者が法人ではない場合や、株式未公開企業の場合はパックマン・ディフェンスを行うことができません。

ちなみに、このネーミングは呑み込もうとする相手を逆に呑み込んでしまうゲームのキャラであるパックマンが由来です。

#1:パックマンディフェンスの事例

このパックマン・ディフェンスですが、事例は非常に少ないです。

一つ紹介すると、フランスの石油会社『トタルフィナ』に対して、『エルフ・アキテーヌ』がパックマンディフェンスを仕掛けたという事例がありました。

しかし、最終的に両社は統合されたため、パックマン・ディフェンスは未消化に終わりました。

このように、事例としてはほとんどないですが、パックマンディフェンスは自らに資金的余裕さえあれば敵対的買収者に対して非常に有効な策なので、防衛策の候補の一つとして考えても良いでしょう。

(3)ポイズンピル(毒薬条項)

ポイズンピルは予め買収コストが高くつくことを認知させることで敵対的買収を断念させる手法のことを言います。

予め認知させるというのは、敵対的買収を防止するシステムを公の株取引の条項に予め書いておき、投資家に周知させるということです。

これはアメリカでスタンダードな方法です。

ポイズンピルはライツプランとも呼ばれます。

#1:ポイズンピルの具体的内容

ポイズンピルには買収者が一定の議決権割合を取得するなどした場合、その買収者に敵対的買収を行わせないために、既存株主に対し時価より安い新株を購入できる権利(新株予約権)を付与するという方法があります。

新株が発行され、大量に購入されると、敵対的買収を目論んでいた投資家の持ち株比率が低下します。

また、時価より割安の新株を大量に発行するので、株価はどんどん低下していき、買収を企む投資家は不利益を被ります。

こうした流れで投資家が敵対的買収をすることを防止するわけです。

6.まとめ

クラウンジュエルというのは敵対的買収に対する対抗策の一つで、自社の重要な財産・事業を第三者に譲渡して自社の価値を落とすことだと説明しました。

他にも、ホワイトナイト、パックマン・ディフェンス、ポイズンピル(毒薬条項)などを紹介しました。

やはり、経営を行っていくうえでは、頻度としては少ないものの敵対的買収が自社に対して起こりうるということを想定していなくてはなりません。

そのためには以上で紹介した防衛策を理解しておく必要があります。

また、もし敵対的買収を仕掛けられたらどのような対応をするのか、シミュレーションしておくのも良いでしょう。

当記事がその一助となれば幸いです。

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