「いざ契約となると上手くいかない」
「そもそもクロージングって何なんだろう?」
このようにお悩みの方はいらっしゃいませんか?
実はクロージングという言葉は、業種や業界によって様々な使われ方をしています。
そのため、ただやみくもにクロージングについて調べてみても、なかなか理解することはできません。
そこで今回は、代表的なクロージングの種類2つと、それぞれのポイント・手順についてご紹介します。
この記事を読めば、クロージングを理解し、ポイントを理解することができますよ!
1. クロージングとは?
クロージングとは、顧客と契約を締結することを意味します。
しかし、「顧客と契約を締結する」といっても、契約の内容は業種や業界によって様々です。
今回は、代表的なクロージングとして、以下の2種類をご紹介します。
- 営業のクロージング
- M&Aのクロージング
まずはこれらの概要についてみてみましょう。
(1)営業のクロージングとは
営業のクロージングとは、顧客と最終的な契約を結び、商談を成立させることを指します。
ここには、2つの意味が含まれていることに注意してください。
- 契約を締結する瞬間(サインや押印)のこと
- 契約に至るまでのアプローチのこと
今回の記事では、後者の「契約に至るアプローチ」を取上げて、営業におけるクロージングのポイントについてご紹介します。
どれほど商品説明がうまくいっていても、クロージングを行えていない場合、契約の締結率はグンと下がってしまいます。
営業の成功率を上げるためには、ただ訴求を行なうだけではなく、効果的なクロージングを行なう必要があります。
具体的な営業のクロージングについて知りたい方は2. 営業のクロージングを成功させるポイント3つをご覧ください。
(2)M&Aのクロージングとは
M&A(企業の合併や買収)におけるクロージングとは、経営権の移転を完了させる最終的な手続きのことを指します。
一般的には、最終契約書に基づき、売手による譲渡対象物の引渡しと、買手による対価の支払いによって完了します。
例えば株式譲渡によるM&Aの場合、売手は株券の引渡しを行い、買手は対価の支払いを行なうことによって完了した(クロージングした)といえます。
M&Aの種類によってクロージングの内容が異なるため、場面ごとでの使い分けに注意してください。
具体的なM&Aのクロージングについて知りたい方は3. M&Aのクロージングの手順をご覧ください。
2. 営業のクロージングを成功させるポイント3つ
営業のクロージングにおいて、最も重要なことは「顧客を勇気付ける」ことです。
クロージングが問題となる場面では、大抵の場合すでに商品説明は終わっており、商品による効果も顧客に伝わっていることと思います。
それでもなお契約の締結に至らないのは、「顧客がまだ決断できていないから」であることがほとんどです。
そのため、営業のクロージングにおいては、顧客が契約締結を決断できるように勇気付ける・背中を後押しすることを最終的な目標にしてください。
それでは、以下からは営業のクロージングの効果を高めるための具体的なポイント3つをご紹介します。
ポイント1. テストクロージングを行なう
本格的なクロージングに入る前に、テストクロージングを行いましょう。
テストクロージングとは、商談の途中で顧客の購買意欲について確認し、トークを先に進めてクロージングに入れるかを確認する行為のことをいいます。
本来、クロージングはいつ行っても構わないものです。
商品訴求の途中であっても、「今なら契約を結べる!」というタイミングであれば、いきなりクロージングに進んでも問題ありません。
ところが、このタイミングを間違えると、実は顧客が商品にまだ納得していなかったり、心象を悪くさせたりで、契約から遠ざかってしまう恐れがあります。
クロージングの適切なタイミングの見極めは、熟練した営業マンであっても困難であるといえます。
そこで、「仮にご購入される場合であれば、どのような仕様になさいますか?」や、「ご納得していただけましたか?」などの質問や確認を通じ、合意を重ねながら話を進めてみましょう。
このように細かい合意を形成していくことで、顧客の心理状態は肯定的なものになり、また、商品に対する顧客の興味・関心度合いも測りやすくなります。
テストクロージングで肯定的な返事を多く獲得しているほど、契約率も高くなっていきますよ!
ポイント2. 選択肢を与える
クロージングを有利に進めるために、顧客に選択肢を与えるようにしましょう。
営業のハウツー本では、「顧客に選択肢を与えず、営業マンが主導権を握り続ける」という内容が散見されます。
しかし、契約の締結に向かっている流れを強引に押し進めてしまうと、たとえ契約が取れたとしても「断れずに押し切られた」という不快感が顧客に残ってしまいます。
そこで、最終的な契約の諾否だけではなく、プランや価格といった選択肢を顧客に提示することにより、「自分で選んだ」という満足感を与えることが必要です。
この時、「もし導入するなら、プランAとBのどちらがお好みですか?」と具体的に選択肢を提示しながら行うと、クロージングへの流れがスムーズです。
このポイントをテストクロージングのなかで取入れると、1回きりではない末長い関係を築くことができます。
ポイント3. ベネフィットを提供する
クロージングの際には、商品のメリットだけではなく、その商品によって顧客の得られるベネフィットを提供するようにしましょう。
商品自体の魅力や、他社製品と比較した場合の優位性については、すでに訴求の段階で説明がなされていると思います。
それでも顧客がなお契約に踏み切れないのは、商品に対する理解力不足なのではなく、「決断できていない」からである、ということでした。
そこで、クロージングの段階では、商品の魅力だけではなく、商品の導入によって訪れる顧客の未来を伝えるようにしましょう。
例えば新型の印刷機の営業であれば、「他社に比べて印刷スピードが早い」ということだけではなく、「導入によって時間的余裕ができ、他業務にも取組める」などと説明します。
そうすることで、顧客はより購入に積極的になり、契約の締結へとつながりますよ!
3. M&Aのクロージングの手順
ここからは、M&Aの『クロージング』の手順についてご紹介します。
M&Aとは、Merger and Acquisition(合併と買収)の略語であり、企業の合併や買収の総称で、その手段には株式譲渡や事業譲渡のほか、OEM提携などさまざまな形態があります。
M&Aは大企業によって行われる、というイメージもありますが、実は日本で行われるM&Aのうち70%は中小企業を対象に行われたものであるとされています。
ここで用いられる「クロージング」の語は営業の場合のものと全く異なるので、しっかりと意義を理解して正しく使いこなせるようになりましょう。
今回は、日本で行われるM&A手段のうち、代表的な3つの手法についてご紹介します。
(1)株式譲渡
株式譲渡とは、売却企業の株式保有者が、その保有株式を買手に譲渡することにより企業の経営権を買手に譲渡するもので、中小企業のM&Aで最も用いられる手段です。
オーナーが株式の大半を所有している場合には、手続きが非常に単純なもので済むため、この株式譲渡がよく行われているという背景があります。
株式譲渡の場合、以下のようなクロージング手順が採られることが一般的です。
- 株式譲渡承認の請求
- 最終契約書の調印
- 株式の引渡し
- 売買代金の決済
- 株主名簿の書き換え
- 重要物の授受
- 臨時株主総会承認
- 取締役会での代表取締役・役員の選任、登記
中小企業による株式譲渡の場合であれば、これら一連の流れを一日のうちに行ってしまうことも多く、この迅速さがM&Aの中でも株式譲渡が好まれる要因の1つとなっています。
これらのクロージング手続きは会社法などの法令による規定が多いため、特に手続き自体への問題は発生しづらいといえます。
(2)事業譲渡
事業譲渡とは、有形・無形のものを含め、企業がその事業の全部または一部を他の企業に譲渡することをいい、譲渡会社の競業禁止や手続きに関して、会社法に規定が置かれています。
事業譲渡の場合は株式譲渡の場合と異なり、譲渡の対価はオーナーではなく譲渡会社に支払われるため、売手オーナーが直接利益を得るわけではない点に特徴があります。
事業譲渡の場合、以下のようなクロージング手続きが採られることが一般的です。
- 取締役会の決議
- 事業譲渡契約の締結
- 提出義務がある場合、臨時報告書の提出
- 公正取引員会への届出
- 株主に対する通知または公告
- 株主総会の特別決議
- 事業内容によっては、監督官庁による許認可の取得
- 財産等の名義変更手続
事業譲渡の場合、譲渡会社の行なっていた業務を譲受会社が引き続き運営することになるため、事業の内容によって届出義務や許認可取得義務が発生する点に注意しなければなりません。
しかし、株式譲渡の場合とは異なり、事業の一部のみを譲渡する契約も可能であるため、特定の事業や債権・債務の範囲を限定できる点がメリットであるといえます。
(3)第三者割当増資
第三者割当増資とは、株式会社の行う資金調達方法の1つであり、既存株主であるか否かに問わず、特定の第三者に対して募集株式を割り当てる増資のことをいいます。
既存株主にとっては持株比率の低下などの不利益を被る恐れがあるため、株式の発行手続きには会社法により詳細な規定があります。
第三者割当増資の場合、以下のようなクロージング手続きが採られることが一般的です。
- 募集株式の数などの募集事項の決定
- 募集事項の通知または公告
- 引受人との総数引受契約締結
- 株式の対価の払込み
- 株主名簿への記載
- 株式発行に係る登記
第三者割当増資では、取締役会の決議によって新株予約権の発行が可能であるため、買収対象企業の既存株主の同意を得る必要がありません。
また、基本的に公開買付け(TOB)の適用を受けない点もメリットであるといえます。
4. M&Aクロージングの必要書類は?
M&Aは、計画の立案から実行に至るまでに多くの法的プロセスを経るため、必要な書類の種類も多岐にわたります。
今回は、M&Aにおいて必要とされる書類のうち、特に重要度の高いものをご紹介します。
(1)売手
主な必要書類として、決算書や税務申告書などのほか、定款、就業規則や不動産登記簿謄本などの基礎資料が必要です。
以下からは、売手が特に注意すべき必要書類について以下3つご紹介します。
- 秘密保持契約書(NDA)
- 株式名簿
- ノンネームシート・企業概要書
順に説明していきます。
#1:秘密保持契約書(NDA)
M&Aの実行にあたっては、弁護士などの専門家に委託する場合がほとんどで、第三者に漏洩してはならない自社の機密情報を取扱う場面も多くあります。
そこで、専門家などの仲介業者との間で秘密保持契約を締結する必要があります。
なお、この契約書は、仲介業者との間で交わされる仲介契約の中に内包されることもあります。
#2:株式名簿
中小企業においては、株主名簿が正確に作成されていない場合のほか、そもそも名簿が存在しない場合も多く見受けられます。
株主の正確な情報がわからなければ、M&Aの際に行われる調査に時間的・金銭的コストがかかってしまいます。
株主数が多い場合や、株主の変更が頻繁い行われている場合には、特に多大な労力がかかるため、変更があった場合には必ず履歴を残すようにしましょう。
#3:ノンネームシート・企業概要書
仲介業者を通して譲受企業の候補先にコンタクトを取る場合、仲介の初期段階で必要となる書類のことをノンネームシート(ティーザー)と呼びます。
ノンネームシートには、会社が特定されない範囲で事業の業種や財務状況などの基本情報、希望する譲渡額などが記されています。
企業概要書は、ノンネームシートを見た譲受候補企業がより具体的な検討をする場合に提出するものです。
企業概要書には、譲渡企業の名称や所在地など、ノンネームシートには記載されていなかった具体的な情報が開示されています。
仲介企業と、譲受候補企業の双方が前述した秘密保持契約に基づく秘密保持義務を負うため、情報漏えいに注意を払って情報の開示が行われます。
#4:その他必要書類
他にも、事務所や工場などの不動産も譲渡の対象に含まれる場合は、不動産の登記簿謄本や賃貸借契約書を準備しましょう。
未登記の不動産がある場合、さらに追加の調査費用が発生したり、交渉に要する時間が増えてしまう可能性があります。
相続等によって所有者が変更となった場合や、建物の増改築で構造が変化している場合など、登記簿に記載されている内容に変化があった場合には特に注意してください。
(2)買手
買手側である譲受候補企業は、譲渡企業から提出された企業基本情報や財務状況などをもとに詳しい調査を行います。
この手続きを詳細調査(デューデリジェンス)と呼びますが、こちらも専門的な知識を必要とするものであるため、専門家に依頼する場合がほとんどです。
#1:意向表明書
意向表明書は、譲受候補企業が、譲受の意思を譲渡企業に提示する際に提出する文書です。
内容としては、譲受ける目的や形態、希望する価格などが記されています。
この文書は法的に求められるものでも、拘束力を持つものではありませんが、M&Aの業務円滑化のために多くの場合で用いられています。
#2:その他必要書類
譲受候補企業と譲渡企業との間でM&Aに関する概要がまとまると、基本合意契約を締結します。
基本合意の内容はM&Aの基本的な条件のほか、独占交渉権や交渉期間などが記載されます。
上述したように、詳細調査を行うにあたっては弁護士や公認会計士など、専門家に依頼する必要があり、多額のコストがかかります。
そのため、基本合意書を交わすことでM&Aの中間合意を行うことが一般的です。
5. まとめ
今回は、ビジネスで日常的に用いられることの多い『クロージング』について、営業とM&Aの場合の2種類についてご紹介しました。
営業の場合は、この記事にあるポイントを抑えるだけで、契約の成約率をグッとアップさせることができます。
M&Aの場合、実際には専門家に依頼してクロージング手続きを行いますが、仲介業者との連絡をスムーズにするため、必要最小限の知識は理解するようにしてください。
これらの知識を活かして、ビジネスをより円滑なものにさせていきましょう!