1.カーブアウトとは
カーブアウトとは、上場会社のグループ内の子会社または事業の価値がマーケットから低く評価されているときに、当該事業を切り出し、社外の別組織として独立させることにより、当該事業の価値を実現させることです。carveという英単度に彫るという意味があり、carve outという英単語に切り出す、分割するという意味があり、そこからできたビジネス用語です。特許の7割が使われないという現状で、大企業内に埋もれた技術や人材はたくさんあります。こうした隠れたリソースを、別の会社として独立させることで日の当たる場所に出し、イノベーションを起こすということです。
独立した事業は新たにベンチャー企業として設立されます。
社内に有望な事業モデルや技術を持っていたとしても、それが主力事業でない場合、必要な経営資源を投下できず、伸び悩んでしまうことも少なくありません。
そこで、カーブアウトを行い、別企業として独立させることで、親会社のほかに投資ファンドからも資金や人材面の支援を受けられるようになり、潤沢な経営資源のもとで事業を促進することが可能になります。特に日本の大手企業の場合、将来有望な技術やビジネスモデルが開発され、事業化の提案が行われても、ゴーサインが出ず、社内で眠ったままというケースは少なくありません。事業化すれば新たな収益を生み出す可能性を持った技術・事業シーズ、また、それらの事業化への情熱を持つ人材を埋もれさせておかず、有効活用できることも、カーブアウトの大きなメリットです。また、経営の意思決定も迅速に行えるようになるため、より事業の成長スピードが加速しやすいとされています。
不採算事業の切り出しという面がクローズアップされがちですが、将来的には有望であるものの、現時点では採算が厳しい事業を存続させるための新しい道ともいえます。カーブアウトでは、旧会社と新規に設立されたベンチャー企業との資本関係によって、「スピンオフ」と「スピンアウト」という形式があります。
2.スピンオフとは
スピンオフとは、カーブアウトによって独立した事業が、旧会社と資本関係が継続していることをいいます。社内ベンチャー制度を利用して設立された企業などが、スピンオフにあたります。大きな注意点としては外部からの融資が受けられないということがあります。
3.スピンアウトとは
スピンアウトとは、カーブアウトによって切り出された事業が、旧会社と資本関係がなくなることをいいます。完全な独立企業となるということです。情報システムや間接部門などの専門性の高い事業部門が対象になることが多く、企業の多角化や全体最適化が進む中で、今後も実施されやすい経営戦略といえます
不採算事業が独立という形で売却される例や技術やビジネスアイディアを持った社員が事業としての発展を目指して退職しそれをもとに起業する例があります。
4.カーブアウトの成功例
カーブアウトの成功事例としてソニーから独立したVAIOの事例を紹介します。
VAIOは1996年に誕生したソニーのPCブランドです。1996年から2014年6月までソニーが販売していましたが、2014年にカーブアウトでソニーから切り離されVAIO株式会社が設立されました。この理由としてはVAIOブランドのPCの売り上げが落ち、大幅な減収が続き、ソニー本体の経営に影響を及ぼすほどの不採算事業となっていたことがあげられます。VAIO株式会社は現在ではソニー以外の外国製の製品も含めて扱っています。
VAIOがソニーから引き継いだものとしてはVAIOというブランド、安曇野の工場、事業部のメンバーだけでした。独立後、VAIOは設立当時1100人いた従業員を240人に減らし、販売台数も500万台から一気に20万台に落として“持たない経営”を実行しました。
主力だったPC事業を身軽にして固定費を減らす一方で、展望が見込めるEMS(電子機器製造受託サービス)やロボット事業にリソースを振ることで、独立から2年後の2016年には黒字化に成功しました。
他にもNTTから移動体通信事業が分離されたNTTドコモの例なども知られています。
5.スピンアウトが注目されている背景
従来はカーブアウトは不採算事業を切り出すための経営戦略として用いられることが主でしたが近年は成長戦略として特にスピンアウトが積極的に用いられています。その背景としてはまず投資ファンドや個人投資家が増えていることが上げられています。受けられる候補が増えたことで独立後の成長がしやすくなりました。他にも特定分野での高いシェアを持つ、付加価値の高い技術力を持つ中小企業の事業再編のニーズが高まっていることも背景としてあげることができます。
一方でスピンアウトに積極的な大企業が得るものもあります。まず多大なリスクを負うことなく、複数の新規事業にタネを蒔くことができます。大きな組織内で新規事業を立ち上げる場合、成長と黒字化を早期に確保しなければならないプレッシャーが大き過ぎることがよく課題として挙げられます。さらに、スピードを遅くしがちな大きな組織の官僚的なオーバーヘッドコストから、新規事業を解き放つこともできます。さらに、採用にもプラスの波及効果があります。大企業からスピンアウトした事例があることで、新しいことを創りたい人材をひきつけることができます。イノベーションを後押しする、という企業イメージを定着させることができます。
6.カーブアウトとPEファンド
近年政府によるコーポレートガバナンスの強化により、主力事業への注力を余儀なくされる企業が増えると見込まれておりカーブアウト案件が多くなると予測されるため、米国ファンドが積極的に日本PE市場に参入しています。
例えば2020年3月、米カーライルグループが2580億円の日本特化ファンドを設立しました。カーライルは新型コロナウィルス禍で日本の大企業のカーブアウト案件が増加すると見込んでおり、これまでターゲットとしていた中堅企業案件だけでなく大型案件にもアジアや米国のファンドの資金も活用し、人員も強化し対応していくとの報道がありました。
以下の記事ではカーブアウトに強いPEファンドなども解説していますのでぜひ読んでみてください。
7.まとめ
今PEファンドにも注目されているカーブアウトについて解説してみました。
PEファンド関連の用語の簡単に読める用語集もありますので是非読んでみてください!