有料職業紹介の監査証明に必要な書類は?手続きの流れや費用を詳しく解説
「有料職業紹介の開業にあたって監査証明書の発行を公認会計士に依頼する必要があるが方法が分からない」
「公認会計士に監査証明書の依頼をするときの手順や費用などを具体的に知りたい」
有料職業紹介の開業・更新には厚生労働省の許可が必要となり、決算書で要件を満たさない場合は監査証明の発行が必要になりました。
しかし、初めて公認会計士に依頼するという人は、どのような手続きが必要なのか、分からない人も多いことでしょう。
本記事では、公認会計士に監査証明書を発行してもらうのに必要な書類や手続き・費用についてご紹介します。
この記事を読んで、監査証明書発行に対する不安を解消してください。
目次
1.有料職業紹介の開業・更新には厚生労働省の許可が必要
2015年の派遣法改正により、有料職業紹介業を開業・更新するには、厚生労働省の許可が必要になりました。
派遣法では、経営者は、有料職業紹介の事業を遂行するにあたり、十分な財産的基礎要件を有することが条件となっており、具体的には以下2つの資産要件を満たす必要があります。
1.基準資産要件
2.現金預金要件
順に詳しく説明していきます。
(1)基準資産要件
基準資産額とは、資産の総額から負債の総額を控除した額のことです。
有料職業紹介業を開業・更新する場合は、以下の基準を満たさなければなりません。
・開業の場合…500万円以上(×事業所数)
・更新の場合…350万円以上(×事業所数)
またここで言う資産とは現金や預金だけでなく、以下のようなものも含まれます。
・株式
・土地
・自社ビル
・商品
・設備
・債権
ただし、例え現金が口座にあったとしても、それが銀行で借りたお金であれば負債となりますので、資産の総額から控除しなければなりません。
現在は、新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、業績が急激に悪化することで資産が減少し、基準資産要件をクリアできず事業を継続できない経営者が増えるとの予想から、特例が公表されています。
現行の対応 | 今後の取り扱い |
○ 最近の事業年度の決算書等をもって資産要件の充足を確認。 ○ 最近の事業年度の決算書等で資産要件を満たさない場合、決算後から更新申請までの中間・月次決算等(公認会計士又は監査法人による監査証明を受けたものに限る。)により資産要件の充足を確認することも可能。 |
資産要件の充足が確認できない場合、以下の確認書類により充足を確認することとする。 ○ 最近の事業年度に令和2年1月 24 日以降の期間が含まれる場合 ・ 最近の事業年度の中間・月次決算等 ・ 最近の事業年度の1つ前の事業年度の決算書等のいずれか 等 ○ また、上記特例を適用し許可を更新する場合、許可の有効期間更新の日から1年後までに、資産要件を満たすことを許可条件として付し、事業者は許可更新の日から1年後までに資産要件を満たすための事業計画を許可更新申請に添付することとする。 |
更新時、現在基準資産要件を満たしていなかったとしても、1年後まで仮更新してくれる意味合いの特例です。
適用できるかどうか、労働局へ確認した上で利用しましょう。
(2)現金預金要件
事業資金として、自己名義の事業資金の現金・預金額が150万円以上必要となります。
この現金預金要件は、開業時のみ必要で、更新時は不要です。
事業所が2つ以上ある場合は、事業所数から1を引いた数に60万円を掛け、150万円にと足した金額以上を現金で準備する必要があります。
(事業所数-1)×60万+150万
例えば事業所が5つの場合、上記の計算式から、(5-1)×60万+150万=390万円となり、経営者の現金預金要件は、390万円と算出されます。
2.決算書で要件を満たさない場合は月次で満たす月がある場合に監査証明で代替可能
決算書でこれら2つの要件を1つでも満たさなかったときでも、年度では満たさなくても、その後の月次で2つの要件を満たす月があった場合、公認会計士による監査証明書を添付して厚生労働省に提出することで、有料職業紹介の許可を得ることが可能です。
ここでは、監査証明とはいったい何なのか、どうすれば監査証明によって許可が得られるのかなどについて説明します。
1.監査証明とは
2.監査証明に必要な書類
3.依頼することができない公認会計士
順に解説します。
(1)監査証明とは
監査証明とは、経営活動の財務上の結果記載した財務諸表が、その企業の経営成績およびキャッシュ・フローの状況ならびに財政状態を”適正”に表しているかを監査し、意見を述べることです。
監査証明は、法律で監査を受けることが義務付けられている「法定監査」と、特定の目的のため、経営者や株主の判断で企業が作成する財務諸表を公認会計士が監査する「任意監査」に大別されます。
有料職業紹介の開業・更新にあたって受ける監査は「任意監査」です。
監査証明で監査される”適正”とは以下となります。
1.一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って財務諸表が作られていること
2.投資家などの利害決定者の意思決定を誤らせるような重要な誤りや偽りがないということ
意見は「監査報告書」として企業に提出されます。
無限定適正意見 | 「すべての重要な点において適正に表示している」旨を監査報告書に記載する |
限定付適正意見 | 「全体に重要な影響を及ぼさない一部の不適切事項を除き、すべての重要な点において適正に表示している」旨を監査報告書に記載する |
不適正意見 | 全体に重要な影響を与える不適切な事項が発見された際、「適正に表示していない」と監査報告書に記載する |
意見不表明 | 重要な監査手続が実施できず、十分な監査証拠が入手できない状況で、意見表明ができないほどに重要と判断した場合、「適正に表示しているかどうかについての意見を表明しない」及びその理由を監査報告書に記載する |
監査報告書に記載する監査意見には4種類あり、監査人はこちらのいずれかの意見を表明する責任があります。
(2)監査証明に必要な書類
監査証明に必要な書類は以下の通りです。
合計残高試算表(月次/中間)
直近事業年度の法人税申告書
直近事業年度の決算書
対象月次決算書の期間における総勘定元帳
履歴事項全部証明書
定款
対象月次決算書の預金残高に関する通帳又は残高証明書
この他に、総勘定元帳の中から、サンプルで個別に検討する取引記録(請求書・領収書等の信憑書類)を追加で依頼されます。
依頼主によって必要な書類が変わってきますので、詳細は会計事務所に問い合わせた上で確認するようにしましょう。
(3)依頼することができない公認会計士
監査証明書を発行できる公認会計士には一定の条件があり、依頼主の会社との利害関係のない、独立した立場の公認会計士である必要があります。
そのため、例えば依頼者の会社で契約している顧問税理士や公認会計士の資格を保有していたとしても、利害関係を問われる関係ですので、監査をすることはできません。
監査を依頼できない公認会計士の条件は以下となります。
顧問契約・コンサルティング契約を結んでいる公認会計士
社内で雇用している公認会計士
会社役員(社外監査役など)に就任している公認会計士
その他、会社と経済的・身分的な利害関係を有する公認会計士
監査証明は税理士や司法書士などの士業が皆できるものかと言うとそうではなく、上記の条件に該当しない公認会計士のみの業務となります。
ただし監査証明は、公認会計士の中でも特殊な分野であり、実績を持つ会計士は多くありません。
監査証明を依頼する場合、依頼できる公認会計士で、有料職業紹介の業界に詳しい方に依頼することが望ましいです。
3.監査計画の立案から監査結果の審査にかかる日数や費用は?
監査結果の審査にかかる日数は、資料を受領してから平均1週間程度です。
申請期限が間近に迫っていて急ぎで手に入れたいという人は、その旨を伝えて依頼も可能な公認会計士もいますが、通常に比べて費用が高くなる可能性があります。
具体的な手続きの流れや、かかる費用を見ていきましょう。
(1)手続きの流れ
1.監査報酬や日程の協議
2.監査契約の締結
3.仮決算の締め
4.監査必要資料の提供
5.監査実施
6.監査報告書発行に係る審査
7.監査報告書発行
一般的に上記の流れで監査証明が行われ、監査報告書が発行されます。
監査報酬や日程の競技、契約の締結を双方で行ったあと、必要資料を揃えたり、監査実施という流れとなり時間がかかる可能性がありますので、公認会計士に監査を依頼する場合、時間に余裕を持つことが大切です。
監査を実施する手続き自体は、「月次報告書」が完成していて、それが要件を満たしていることを証明できる「根拠資料」が揃っていれば、最短即日で監査証明が発行できます。
(2)費用について
費用の相場は、大体15万円~50万円ほどです。
幅が大きいなと思われるかもしれませんが、依頼する会社の売上高や総資産になど、規模により業務量が変動しますので、それに合わせて費用も変動します。
費用は、公認会計士の作業量に比例しますので、売上高1億円の会社と、売上高1,000万円の会社では、公認会計士による監査の際、業務量が大きく異なりますので、その点の理解が必要です。
依頼する会社が、法人設立から間もない場合は、最低料金前後を見ておくと良いでしょう。
新規なのか、更新なのか、現在の状況を知らせ、依頼の前に具体的な見積もりを取ることで、初めての依頼でも安心して公認会計士に任せることができます。
4.更新の場合は「合意された手続」でも可
有料職業紹介の新規開業は監査証明である必要がありますが、更新申請の場合は、「合意された手続き」でも認められています。
合意された手続きとは、経営者側と公認会計士の間で事前に調査手続きの詳細について合意し、その合意された手続きを実施した上で結果を報告する業務のことです。
監査証明(新規or更新) | 合意された手続き(更新のみ) | |
公認会計士作業量 | 多い | 軽め |
監査報酬 | 15万〜50万円 | 10万〜25万円 |
平均日数 | 1週間前後 | 3日前後 |
保証の有無 | あり | なし |
保証とは、経営者側の月次決算書が適正に作成されていると、公認会計士が保証することです。
監査証明の場合、この「保証」が求められるため、公認会計士の作業量が広範囲に渡ります。
合意された手続きでは、公認会計士による保証が求められていないため、作業量が比較的軽いのです。
ただし、労働基準監督署の判断で事業を継続できるかの認可が下りるか下りないかが決まるため、合意された手続きでの申請は、認可が下りないというリスクを抱える可能性があります。
費用や日数はかかりますが、合意された手続きよりも、監査証明の方が審査を通す目的であれば安全です。
そのため弊社では、労働局の審査がスムーズに下りる観点から、合意された手続きでの更新作業は行わず、監査証明のみで行っています。
労働局に問合せをすると、合意された手続きの方が安く済むとアドバイスされますが、合意された手続きは、依頼者と公認会計士が話し合って対象を決める必要があり、監査証明に比べて手間がかかるため、実際のところ、値段は大きく変わりません。
企業の規模にもよりますが、合意された手続きでの申請を、監査証明に変更したところで、大幅に予算をオーバーすることは少ないでしょう。
まとめ
有料職業紹介は、転職希望社の希望に沿った転職先を見つけられる点や、企業の採用コストを抑える点で、とても有益な事業です。
しかし、有料職業紹介の開業・更新には、厚生労働省の許可が必要となり、決算書で要件を満たさない場合には、公認会計士による監査証明書の発行が必要となりました。
監査証明を公認会計士に初めて依頼するという人は、その手順や実際に依頼したときの費用など、分からないことが多いと思います。
依頼自体は状況を伝えて色々と相談が可能ですので、簡単です。
手続き内容は企業の規模により変わってきますので、大元の流れや大体の費用を頭に入れた上で、公認会計士と相談しながら進めていくと良いでしょう。
まずは本記事で、監査証明書発行の流れについて把握してから、依頼するとスムーズです。