「買収防衛策について詳しく知りたい」
「企業が大きくなってきたから、買収されないようにしたい」
そうお悩みではないでしょうか。
買収防衛策を取ることで、敵対的買収を防げるのですが、デメリットもあります。
そのため、中にはあえて買収防衛策を廃止した企業もあります。
この記事では買収防衛策の具体的な方法と、注意点、導入した企業や廃止した企業の事例について解説します。
1.買収防衛策とは
買収防衛策とは、企業が敵対的買収をされないために導入する対策のことです。
敵対的買収は相手の企業の取締役会との合意を得ることなく、会社の買収を行うことで、TOBを用いて行われる方法が一般的です。
敵対的買収については以下の記事を参考にしてください。
大まかに敵対的買収のターゲットになりにくいようにする策と、実際にターゲットにされた時に行う対抗策の2種類に分かれます。
買収防衛策を行うことで確かに買収は行われにくくなるものの、株主にデメリットがあるケースが多く、株主からは好まれないことも少なくありません。
買収防衛策をするメリットは、敵対的買収を防ぐことができるという以上のメリットはありません。
ただし、これは株主や従業員にとってはデメリットになることがあり、次に説明するように問題点も少なからずあります。
安易に導入することで、会社の成長を阻害する要因になることもあるため、買収防衛策をとる場合には、その必要性をよく検討する必要があるでしょう。
2.買収防衛策の種類
買収防衛策と一言で言っても具体的な策はたくさんあります。
大まかには、敵対的買収のターゲットにならないようにする予防策と、敵対的買収が発表されてから行われる対抗策の2種類に分かれます。
ここでは予防策と対抗策について詳しく解説します。
(1)予防策
敵対的買収の予防策としては以下のものがあります。
- ポイズンピル
- マネジメントバイアウト
- プットオプション
- 黄金株
- ゴールデンパラシュート・ティンパラシュート
- チェンジオブコントロール
ではそれぞれの対策について次で詳しく解説します。
#1:ポイズンピル
ポイズンピルとは、敵対的買収を実施されそうになった場合に新規株を発行する条項を定めておく施作のことです。
この施作を実施しておくと、買収しようとしている企業が株式の持ち株比率を増やそうとした時に新株を発行し、買収企業の持ち株比率を意図的に下げられます。
ただし、株式の発行部数が増加することで、株価が大きく下がるというデメリットがあります。
#2:マネジメントバイアウト(MBO)
マネジメントバイアウトとは、自社の経営陣が株式を買い取り非上場化させることで、敵対的買収を行えなくする方法のことです。
非上場化することで、敵対的買収をするための公開株式買い付けを防ぐことができます。
ただし上場を目指す企業の場合、この方策は取れません。
#3:プットオプション
プットオプションとは、その会社の株主と債権者に対して一定の条件を満たした場合に、株式の買取や弁済を要求できる権利のことです。
この権利が敵対的買収をされた際に利用できるようにすれば、ある会社が敵対的買収をしようとした時に株式の買取や債権を請求されます。
この結果、敵対的買収が完了すると、多額の資金が必要になるため、買収を防止することができます。
#4:黄金株
黄金株とは会社の合併などを拒否する権利がある特別な株式です。
この株式を所有している会社は、買収に関わる株主総会決議事項について拒否権を行使できます。
この株は一株しか発行できず、自社で所有することができません。
そのため株式は普段取引があり、関係が良好な企業に渡されることが一般的です。
#5:ゴールデンパラシュート・ティンパラシュート
ゴールデンパラシュートとティンパラシュートは、退職金を高く引き上げる方法です。
ゴールデンパラシュートでは経営陣の退職金を、ティンパラシュートでは従業員の退職金や一時金を高く設定します。
敵対的買収がされた後、買収した会社は経営陣や従業員を退職させようとするケースがあります。
退職金を高く設定しておけば、買収後に退職金の負担が大きくなるため、買収の抑止力として機能します。
#6:チェンジオブコントロール
チェンジオブコントロールとは、経営権が変わった時に制限や契約解除を発動させる条項のことです。
条項の具体例としては「自社の株が一定以上変動した場合には、〇〇社との契約を催告なく解除できる」などがあります。
〇〇社が重要な取引先の場合、この条項が発動すると、取引先が失われ、売り上げが大きく低下する可能性があり、買収の抑止力として機能します。
(2)対抗策
次に買収防衛策の中でも、敵対的買収のターゲットにされた場合の対抗策を紹介します。
敵対的買収で行われる公開買い付けは、あらかじめ実行される日が決まっているため、その前に実行されます。
具体的な手段は以下のものなどがあります。
- ホワイトナイト
- クラウンジュエル
- パックマンディフェンス
- ジューイッシュ・デンティスト
次で詳しい内容を見ていきましょう。
#1:ホワイトナイト
ホワイトナイトとは敵対的買収のターゲットになった時に、第三者割当増資などを利用し、敵対的買収に必要な持ち株比率にならないよう防衛する方法です。
第三者割当増資とは、特定の第三者に対して、株式を発行し購入してもらう方法のことです。
一見すると、ポイズンピルと似ていますが、ポイズンピルは予防策であり、ホワイトナイトは買収を仕掛けられてから行う対抗策という点で違いがあります。
またホワイトナイトの場合は特定の会社に依頼するという点でも違いがあります。
この方法で敵対的買収を仕掛ける企業の、株式所有割合が一定以下になれば、敵対的買収ができなくなります。
ただし、第三者割当増資で株式を購入してもらった会社の持ち株比率も高まるため、その会社によって自社の経営に悪影響を与えうる可能性もあります。
そのためホワイトナイトを依頼する対象は慎重に選ぶことが重要です。
#2:クラウンジュエル
クラウンジュエルは焦土作戦とも言い、買収側が求めている事業や資産を別の第三者に売ってしまうことです。
買収先の企業の目的が特定の事業や資産にある場合、大きな力を発揮しますが、その後の経営に重大な影響を与える可能性もあります。
また株価が下がることも避けられず、デメリットやリスクが大きいため、滅多に実施されることはありません。
#3:パックマンディフェンス
パックマンディフェンスとは、敵対的買収を仕掛けた企業に対して逆に買収を試みる防衛策です。
買収元の企業の株を1/4以上保有すると、買収を仕掛けられた企業への議決権が失われ、敵対的買収ができなくなります。
ただし、買収を実行するための膨大な資金力が必要になるため、実行難易度はかなり高いです。
#4:ジューイッシュ・デンティスト
ジューイッシュ・デンティストとは、敵対的買収のターゲットになった場合に、自社のネガティブな情報をマスコミに流すことで、購入するメリットをなくさせる防衛策です。
この方法を取ると、敵対的買収が成功した場合に資金調達が困難になり、また社会的信用を回復させるコストや手間がかかるため、買収を防ぐことができます。
ただし、買収が回避された後で、失われた社会的信用を回復させる必要があり、経営に大きな悪影響を与えてしまいます。
3.なぜ買収防衛策は廃止される?買収防衛策のデメリット
買収防衛策はデメリットが大きく、そのため、買収防衛策をとっていた企業がその防衛策を廃止にすることも少なくありません。
具体的なデメリットは大まかに以下の2つがあります。
- 株主や社員に不利益になることもある
- 株の流動性が下がる
ではこれらについて次で詳しく見ていきましょう。
(1)株主や社員に不利益になることもある
敵対的買収の注意点は、株主や社員に不利になることがある点です。
買収防衛策には色々な種類があるものの、その取り組みの多くが株主や従業員にとって不利益なものです。
クラウンジュエルが代表的ですが、意図的に企業の価値を下げるような行為は、株主や従業員から反発される恐れがあります。
そのため、買収防衛の役割を果たせたとしても、その後の経営に悪影響を及ぼすことも少なくありません。
買収防衛策を実施する場合には、そのデメリットをあえて受けてでも実践する価値があるのかどうか、よく検討する必要があるでしょう。
(2)株の流動性が下がる
買収防衛策の注意点は株の流動性が下がることです。
買収防衛策として行われるものの多くは、株の購入に制限をかけるものです。
株が購入しにくくなると、株の流動性が下がり、株価の値上がりが起こりにくくなります。
株主の中にはこの事態を好ましくないと考える人も少なくないでしょう。
4.買収防衛策を取り入れる時の事前準備
買収防衛策は株主や従業員に不利益を与えることも多く、導入する場合にはあらかじめ準備しておくべきことがあります。
具体的には以下の点です。
- 株主の合意を得ること
- 買収防衛できた後のことを考えること
買収防衛策を取り入れたい場合には、この2点について抑えておかなければ、取り返しのつかないことになりかねません。
次で詳しく説明します。
(1)株主の合意を得ること
買収防衛策を行う場合には、株主の合意を得ることが必要です。
買収防衛策は定款変更を伴うものも多く、株主の同意なしに買収防衛策を取れない方法も少なくありません。
株主の合意が必要ないクラウンジュエルなどの施作もありますが、合意なしに行うと、株主から反発される可能性が非常に高いため、そうした場合でも事前の合意はしておくべきでしょう。
(2)買収防衛できた後のことを考えること
買収防衛策を取り入れる場合は、買収防衛できた後のことを考えておきましょう。
買収防衛策は株主に不利益なものが多いため、株主が減ってしまい、買収を回避できても、その後の経営が困難になる可能性もあります。
場合によっては無理に買収回避しようとするより、買収された方が良いなんてケースも十分に考えられます。
買収対策を行う場合は、買収対策できた後もきちんと経営ができる状態になっているかどうか、よく検討しましょう。
5.買収防衛策の導入企業の例
買収防衛策を導入にはリスクがありますが、そのデメリットを承知の上で導入している企業もいくつかあります。
具体的には以下の企業です。
- イオン
- ブルドックソース
次で詳しく解説します。
(1)イオン
イオンは買収防衛策としてポイズンピルの方法をとっています。
イオンは議決権割合が20%を超えるような買付行為を行おうとした会社に対してポイズンピルを行うと発表しています。
ポイズンピルは、買収防衛策の中でも実施されることが多い防衛策です。
(2)ブルドックソース
ブルドックソースは、買収防衛策を日本で最初に行った会社です。
2007年にアメリカの投資ファンドである、スティール・パートナーズの関連会社に敵対的買収のターゲットにされたことをきっかけに、敵対的防衛策を行った会社です。
株主総会を行い、新株予約権を既存の株主に発行することで、買収を防止しようとしました(ポイズンピル)。
しかし、この関連会社にこの取り決めはの差し止めを裁判所に求めました。
最終的にブルドックソースの買収自体は免れたものの、買収防衛策のために億を超える多額の費用がかかったため、その後の経営に大きな影響を与えています。
6.買収防衛策の廃止企業の例
買収防衛策はデメリットもあるため、買収防衛策を廃止した企業も少なからずいます。
具体的には以下の企業があります。
- パナソニック
- クラレ
- ワコール
- 帝人
- リンナイ
- コメリ
- グンゼ
どの時点で買収防衛策を廃止したかはそれぞれの企業により異なります。
また、2017年の金融商品取引法によって情報伝達・取引推奨行為の規制がされたことで、敵対的買収が難しくなったことがきっかけになっている場合が多いです。
ここではパナソニックやクラレの事例を取り上げ簡単に解説します。
(1)パナソニック
パナソニックは、2005年に買収防衛策としてポイズンピルを開始しましたが、2016年に買収防衛策を廃止する方針を発表しました。
国内外の機関投資家の意見や、買収防衛策の動向などによる、外部の環境変化によって廃止したと発表しています。
(2)クラレ
クラレは2009年から買収防衛策としてポイズンピル採用していましたが、2018年に買収防衛策を廃止しました。
この背景としては、金融商品取引法によって、大量買付行為の規制が行われたことで、買収防衛策の目的がある程度果たされていることがあるようです。
7.まとめ
この記事では買収防衛策とは何か、そのメリットとデメリット、具体的な手法や実施する場合の注意点などについて詳しく解説しました。
買収防衛策は実施しておくことで、敵対的買収を防ぐ効果があるものの、株価の流動性が下がるなどデメリットが大きいため、あえて取り入れない会社も少なくありません。
この記事を参考に買収防衛策を取り入れるかどうか、ぜひ一度検討してみてください。