「ストックオプションって聞いたことあるけど、よくわからない…」
「ストックオプションを検討しているが、メリット・デメリットがわからない」
このように悩んでいませんか?
この記事では、ストックオプションについて、次の4点からわかりやすく解説します。
- ストックオプションの用語説明
- ストックオプションの種類について
- ストックオプションのメリット・デメリットについて
- ストックオプションと税金・確定申告について
この記事を読んで、ストックオプションについてしっかりと知識を身につけましょう。
1.ストックオプション(Stock-Option)とは
ストックオプション(Stock-Option)とは、『自社の株式を、決められた期間内であらかじめ定められた価格(権利行使価格)で購入できる権利』を指します。
近年日本でも広まってきており、主にベンチャー企業で積極的に採用されている制度です。
ストックオプションの権利を取得した従業員や会社の役員は、例えば、自社株の時価が上昇した際に権利を行使して権利行使価格で株式を取得し、時価との差益を目指すなど、将来的な収益を目的とします。
一方で、もし自社の業績が悪化するなどで時価が下がり、権利行使価格よりも時価が低くなってしまった場合は、権利を行使せずにいることで、損をすることを防ぐことも可能です。
そのため、取得した従業員や会社の役員にとって、自社の業績向上を目指すモチベーションを生み出すことに大きく寄与します。
ストックオプションはアメリカで始まった制度です。
日本よく理解されている「ストックオプション制度」は、アメリカでは「Employee Stock Option」(従業員自社株購入権)と呼ばれます。
2.ストックオプションの種類
ここでは、ストックオプションの種類について説明します。
また、ストックオプションと新株予約権との違いについても質問します。
ストックオプションの設計は企業によって様々ですが、主なストックオプションは、次の3点です。
- 通常型ストックオプション
- 株式報酬型のストックオプション
- 有償型ストックオプション
それぞれについて、詳しく説明します。
2-1.通常型ストックオプション
通常型ストックオプションとは、権利行使価額を権利割当時の株価以上に設定し、割り当てるストックオプションです。
そのため、株価が権利行使価額以上にならないと利益が生じません。
税制適格要件を満たす場合、権利行使時の評価益が非課税となる特例措置があります。
税制適格要件について、詳しくは第8章で説明しています。
2-2.株式報酬型ストックオプション
株式報酬型ストックオプションとは、権利行使価額を1株当たり1円で設定するストックオプションです。
そのため、権利割当時点ですでに時価と権利行使価額との差益(含み益)が生じており、株価の変動に伴って含み益が増減します。
こちらは、税制適格要件を満たさないため、権利行使時の評価益は課税されてしまうため、注意が必要です。
税制適格要件について、詳しくは第8章で説明しています。
2-3.有償ストックオプション
有償ストックオプションとは、新株予約権を金銭で払い込むことにより、新株予約権を購入するストックオプションです。
つまり、従業員や会社役員は権利付与時の株価でストックオプションを実際に購入し、発行会社の新株予約権に対して投資を行うものです。
そのため、新株予約権の行使価格や期間、株価目標などを自分自身で吟味することによって購入を決めることが可能であり、能動的に投資することができます。
新株予約権を取得した従業員や会社の役員は、業績や株価目標を達成することで、株価上昇分の差益を得ることができます。
近年、業績・株価に関する意識、目標達成への動機づけへの効果が高いとされ、2010年にソフトバンクが導入して以降、東証一部・二部問わず、導入件数が増加しています。
2-4.ストックオプションと新株予約権との違い
新株予約権とは、あらかじめ決められた金額で株式を購入できる権利を指し、ストックオプションも『新株予約権』のうちの一つです。
株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいう。
つまり、新株予約権の内、該当企業が従業員や会社の役員に報酬として与えるものが、ストックオプションです。
新株予約権には、ストックオプションのほかに、保有者が保有する社債をあらかじめ決められた株式に転換することができる『転換社債(CB:Convertible Bond)』や、社債から新株予約権だけを切り離し、新株予約権と普通社債に別途に売買可能な『分離型ワラント社債』などがあります。
つまり、ストックオプションは新株予約権の一種であり、新株予約権とストックオプションは全く同一のものというわけではありません。
3.ストックオプションに向いている企業は?
ストックオプションが向いている企業、ストックオプションが向いてない企業があります。
ここでは、ストックオプションが向いている企業が持っている主な特徴は、次の2つです。
- 自社の株式を売却できる機会がある
- 株価が将来大きく上がる可能性がある
それぞれについて詳しく説明します。
特徴1.自社の株式を売却できる機会がある
自社の株式を売却する機会がある企業は、ストックオプションに向いています。
なぜならば、どんなに株価が上昇したとしても、売却する機会がなければ意味が無いためです。
そのため、基本的には、株式市場への上場が条件になります。
もし、自社が株式の売買を想定していなければ、ストックオプションを行使したとしても売却は簡単ではありません。
逆に、ベンチャーキャピタル等の出資を受けて将来上場する可能性の高いベンチャー企業や、上場を控えている企業にとってはメリットが多く、ストックオプションが向いています。
特徴2.株価が将来大幅に上がる可能性がある
株価が将来大幅に上がる可能性がある企業は、ストックオプションに向いています。
なぜならば、ストックオプションの権利付与時と権利行使時の間で株価に大きな違いがなければ、売買差益を得ることはできないためです。
実際に、ストックオプションを採用している会社は、創業間もないベンチャー企業が多いです。
成長しきった企業の場合、株価が何倍・何十倍に上がる可能性は限りなく少ないでしょう。
そのため、成長市場にポジションをとっている設立直後のベンチャー企業など、上場の可能性は現段階で低いが、将来的に期待できる企業に、ストックオプションは向いています。
4.『会社側』ストックオプションのメリット
ここでは、『会社側』にとってのストックオプションのメリットについて、詳しく説明します。
『会社側』にとってのストックオプションのメリットは、次の3点です。
- 優秀な人材の確保・流出を防ぐことができる
- 従業員のモチベーションがアップする
- 報酬制度の多様化を図ることができる
それぞれについて、詳しく説明します。
メリット1.優秀な人材の確保・流出を防ぐことができる
ストックオプションを採用することで、優秀な人材を確保でき、かつ、優秀な人材の流出を防ぐことができます。
なぜならば、優秀な人材を確保するためにはそれに見合った高額な報酬が必要であり、ストックオプションによって、付与された従業員が売却益によって巨額の富を得ることも可能だからです。
そのため、特に手前のキャッシュが不足しているベンチャー企業にとって、キャッシュアウトを伴わずに優秀な人材を確保できる、大変メリットの大きな制度となっています。
さらに、行使条件に、『ストックオプションを行使するとき、従業員であること』といった内容を設定することで、優秀な人材の流出を防ぐこともできます。
実際に、ストックオプションを導入している多くのベンチャー企業では、退職時のストックオプションの放棄について規定されています。
ストックオプションは、目下のキャッシュアウトをすることなく、優秀な人材を確保し、かつ、優秀な人材の流出を防ぐことができます。
メリット2.従業員のモチベーションがアップする
ストックオプションを採用することで、従業員のモチベーションがアップします。
なぜなら、自社の業績とストックオプションを付与された従業員の報酬が比例関係にあるからです。
自社の業績が上がることで株価の上昇をもたらし、ストックオプションを権利行使した際の、売買差益が大きくなるためです。
従業員自身の仕事の成果が会社の業績アップにつながり、会社の業績アップが自身の報酬アップにつながるという好循環を生み出します。
そのため、企業の成長への大きなインセンティブとして働くため、ストックオプションは従業員のモチベーションアップに大きく貢献します。
メリット3.報酬制度の多様化を図ることができる
ストックオプションを採用することで、報酬制度の多様化を図ることができます。
企業の成長・従業員の働きに応える制度として、通常のボーナス支給、ベースアップ以外にもオプションを持つことができます。
さらに、上述の通り、ストックオプションの付与はキャッシュアウトを伴わないため、キャッシュフローを悪化させることなく、従業員の頑張りを評価することが可能です。
ボーナスや給与を多く支給した場合、翌年以降に支給額を下げることは難しく、もし支給額を下げた場合、従業員に不満が生まれてしまいます。
そのため、ストックオプションを採用することで、報酬制度の多様化を図ることは大変有用です。
5.『会社側』ストックオプションの注意点
ここでは、『会社側』にとってのストックオプションの注意点について、詳しく説明します。
『会社側』にとってのストックオプションの注意点は、次の3点です。
- 業績悪化でのモチベーション低下を招く可能性がある
- 従業員同士の関係性に悪影響を与える可能性がある
- 権利行使後に従業員が退職する可能性がある
それぞれについて、詳しく説明します。
注意点1.業績悪化でのモチベーション低下を招く可能性がある
ストックオプションを採用することで、業績悪化で従業員のモチベーション低下を招く可能性があります。
なぜならば、ストックオプションは企業の株価に連動しており、業績が悪化することで、ストックオプションの魅力が薄れてしまうためです。
業績が悪化した際に、『業績を回復させよう』と従業員が奮起する場合もありますが、反対に、企業への忠誠心が薄れ、業務を投げだしてしまう可能性もあります。
そのため、ストックオプションの魅力だけで従業員をつなぎとめていた場合、業績悪化に伴って従業員のモチベーション低下を招き、最悪の場合、離職に繋がります。
注意点2.従業員同士の関係性に悪影響を与える可能性がある
ストックオプションを採用することで、従業員同士の関係性に悪影響を与える可能性があります。
なぜなら、ストックオプションの付与の度合いに応じて、従業員が不公平感を感じるためです。
特に上場間近になっている企業にとって、ストックオプション付与数の大小は大きくモチベーションに関わってきます。
そのため、ストックオプションを付与する場合は、しっかりと『なぜ付与するのか』を明確にしておきましょう。
注意点3.権利行使後に従業員が退職する可能性がある
ストックオプションを採用することで、権利行使後に従業員が退職する可能性があります。
ストックオプションは、場合によっては大変大きな利益であり、ストックオプションの権利行使後の売買差益自体を目標としてしまう可能性があります。
そのため、ストックオプション権利行使のタイミング・数量を規定するベスティング条項(Vesting Clause)を設定し、すぐに権利行使行えないようにするといった制度設計が重要です。
6.『従業員側』ストックオプションのメリット
ここまで、会社側のストックオプションのメリット・デメリットについて説明しました。
ここでは、『従業員側』にとってのストックオプションのメリットについて、詳しく説明します。
『従業員側』にとってのストックオプションのメリットは、次の2点です。
- 大きな利益を得ることができる
- 自身の頑張りが報酬に結び付きやすい
それぞれについて、詳しく説明します。
メリット1.大きな利益を得ることができる
ストックオプションは、将来的に大きな利益を得る可能性があります。
ストックオプションによる利益は、『売買差益×付与された株式数』で計算できます。
売買差益は、『権利行使後の売却時点の株価』から『ストックオプション付与時点の株価』を差し引いたものとなります。
したがって、上場を達成することで株価が大幅に上昇し、利益を得ることができます。
メリット2.自身の頑張りが報酬に結び付きやすい
ストックオプションは、自身の頑張りが報酬に結び付きやすいです。
理由は、業績アップは直接的に株価上昇につながり、自身のストックオプションの利益を増加させられるからです。
一度ベースアップすると下げにくい給与に比べ、ストックオプションは報酬として反映されやすいです。
そのため、ストックオプションは働くインセンティブとして大いに寄与します。
7.『従業員側』ストックオプションの注意点
ここでは、『従業員側』にとってのストックオプションの注意点について、詳しく説明します。
『従業員側』にとってのストックオプションの注意点は、次の2点です。
- 利益につながらない可能性がある
- M&Aによって権利がなくなる可能性がある
それぞれについて、詳しく説明します。
注意点1.利益につながらない可能性がある
ストックオプションは、最悪の場合、利益につながらない可能性があります。
なぜならば、ストックオプションは企業の業績に依存するものであり、企業が成長できなかった場合、手に入れた権利は無駄になってしまうからです。
そのため、ストックオプションの付与を転職の条件として提示された場合、ストックオプション分を過大に評価することはおすすめできません。
しかし、ストックオプションは無償付与として採用しているベンチャー会社がほとんどであり、例え利益を得られなかったとしても、損失を被ることもありません。
ストックオプションは大変魅力的なものである一方、利益として計算できないものであるリスクも頭に入れておきましょう。
注意点2.M&Aによって権利が無くなる可能性がある
ストックオプションは、M&Aによって権利が失効してしまう可能性があります。
事業拡大を目指すベンチャー企業にとってのゴールは、上場だけでなく、M&Aも近年増えてきております。
そのため、ストックオプションの行使条件に『上場時にのみ行使できる』といった内容が盛り込まれていた場合、M&Aで別企業の子会社になった時点で、行使できなくなってしまいます
そのため、ストックオプション付与を打診された場合は、このような限定条件がないかどうか、確認しましょう。
8.ストックオプションと税金・確定申告の方法
ここでは、ストックオプションの税金について、詳しく説明します。
原則として、ストックオプションを付与された者は、ストックオプションの権利行使時と権利行使によって取得した株式の売買時に、それぞれ所得税が課税されてしまいます。
しかし、ストックオプションには税制優遇措置があり、ストックオプションの権利行使時の所得税の課税を回避することができます(税制適格)。
そのため、ここでは以下点について詳しく説明します。
- 税制非適格ストックオプション(課税対象)
- 税制適格ストックオプション(優遇措置)
- 確定申告について
それぞれについて、詳しく解説します。
8-1.税制非適格ストックオプション
税制非適格ストックオプションとは、ストックオプションの権利行使時点に課税されてしまうものです。
ストックオプションを付与された者が、その権利を行使した際、あらかじめ決められていた権利行使価額と権利行使時点での株価との差額が給与所得と、所得税が課税されます。
さらに、その後に手に入れた株式を売却する際、売却時の株価と権利行使時の株価との差額が、譲渡所得として、所得税が課税されることになります。
権利行使時にすぐに株式を売却、譲渡せず、現金として収入を得ていない場合でも、所得とされて課税されてしまうため、注意が必要です。
そのため、こうした不都合を解消するため、日本の税制上、ストックオプション税制の優遇措置が設けられています。
その優遇措置の対象となるストックオプションを『税制適格ストックオプション』といいます。
8-2.税制適格ストックオプション
税制適格ストップオプションとは、ある一定の条件を満たしたストックオプションで、権利行使をしても課税を免除されるものです。
つまり、税制非適格ストックオプションとは異なり、権利行使時には所属税は課税されず、株式売却時の譲渡所得に対してのみ課税されることになります。
この優遇措置が適用されるためには、導入されているストックオプションが以下の要件を満たす必要があります。
#1.税制適格ストックオプションの要件
以下の要件を満たす税制適格ストック・オプションは、権利行使時に課税はされず、権利行使により取得した株式の譲渡時まで課税が繰り延べられます。
ただし、税制度については慎重に対応する必要があるため、必ず専門家に確認しながら進めることをおすすめします。
租税特別措置法:第 29 条の2第2項・第2項、租税特別措置法施行令19条の3
- 金銭の払い込みなしに発行された新株予約権であること
- 権利行使が、付与決議日から 2 年を経過した日から 10 年を経過する日までの間に行われること
- 権利行使の年間の合計額が 1,200 万円以下であること
- 権利行使価額が、株式の付与契約締結時の時価以上であること
- 新株予約権の譲渡ができないこと
- 権利行使による株式の交付が、会社法上の決議事項に反しないこと
- 新株予約権の行使により取得する株式について、会社と金融商品取引業者等との間で予め締
結される取り決めに従い、取得後直ちに振替口座簿への記載等がなされること - 大口株主及びその親族や配偶者等でない旨誓約していること
- 付与対象者が、新株予約権の発行会社、又はその会社が直接又は間接に 50%超の株式を保有
する子会社等の、取締役、執行役又は使用人(これらの相続人を含む)であること
自社のストックオプションが税制適格の要件を満たしているか確認しましょう。
8-3.ストックオプションの確定申告
ここまで、ストックオプションには税制適格と税制非適格のものがあることを説明しました。
ここでは、ストックオプションに関わる税金の納税方法について、詳しく説明します。
ストックオプションの税制適格・税制非適格、権利行使時・株式売却時でそれぞれ整理が異なってきますので、しっかりと確認しましょう。
#1.税制非適格ストックオプションの場合
税制非適格のストックオプションである場合、具体的には以下のとおりです。
権利行使時には、権利行使時点での実際の株価と権利行使価額との差額が給与所得となります。
しかし、一般的には企業側で通常の給与から源泉徴収分を差し引くため、権利行使時には確定申告は不要です。
一方で、株式売却時には給与所得ではなく、株式の譲渡所得となります。
そのため、株式を売却した時には、確定申告が必要になります。
#2.税制適格ストックオプションの場合
税制適格のストックオプションである場合には、具体的には以下の通りです。
権利行使時には、所得税が課税されないため、確定申告も不要です。
一方で、株式売却時には、給与所得ではなく、株式の譲渡所得になります。
そのため、株式を売却した時には、確定申告が必要になります。
9.まとめ
ストックオプションは、企業経営にとって大変重要な制度です。
ストックオプションを導入することで、優秀な人材を採用しやすくなるだけなく、税制上もメリットのある制度です。
一方で、自社の力だけで一から導入・運用することは難しいです。
信頼できる専門家を見つけ、ストックオプションの効果を最大化しましょう。