「NDAと言われたけど、何かわからない…」
「NDAってどのように結べばいいんだろうか…」
このように悩んでいませんか?
この記事では、NDAについて、次の4点からわかりやすく解説します。
- NDAの用語説明
- NDAの手続きの流れ
- NDAの注意点について
- NDAのテンプレートの紹介
この記事を読んで、NDAについてしっかりと知識を身につけましょう。
1.NDA(秘密保持契約)とは
NDAとは、個人及び法人の間で取り交わされる、取引において知りえる秘密について、第三者に開示しないとする契約です。
特に、共同研究開発契約、M&Aや第三者への委託業務依頼等を行う際に、重要な営業秘密を契約の相手方に開示する必要がある場合に結ばれることが多いです。
機密保持契約、守秘義務契約ともいいます。
つまり、外部に情報が漏れることで損害を被る可能性がある重要情報を取り扱う際に、取り交わす契約です。
(1)秘密情報に含まれるもの
『秘密情報』は、具体的には、NDA上で定義されます。
ただし、一般的には、情報を開示する側が特に秘密にしたいと考えている情報を指します。
場合によっては、NDAの存在やその内容、および取引に関する協議・交渉の存在など、NDA自体についても、『秘密情報』とされることがあります。
具体的には、以下のような情報を取り扱う場合に、NDAを締結するケースが多いです。
- 顧客名簿
- 事業企画書
- 製品の図面
- 試作品
- 研究中のデータなど
このように、情報開示側に損害を被る可能性がある情報を『秘密情報』とします。
(2)秘密情報に含まれないもの
情報を開示する側から開示される情報であっても、『秘密情報』とみなされない情報も存在します。
一般的に、以下の情報は「秘密情報」には含まれず、NDAを締結する必要が無いと判断されるケ-スが多いです。
- 情報が開示された時点ですでに公にされている情報
- 情報を開示された後、情報を開示された側の責めに帰すべき事由によらずに漏洩した情報
- 情報を開示された後、合法的に第三者から入手した情報
- 情報開示前に、情報を開示された側がすでに独自に開発していた情報
例えば、開示された時点ですでにホームページ上に記載されていたり、新聞やマスコミによって報道されていれば、その情報は『秘密情報』にはあたりません。
また、情報の開示後、情報を開示する側がセミナーや報道機関など、公に対してその秘密情報について話をしたときにも、秘密情報からは除外されます。
2.NDA(秘密保持契約)の書類作成の流れ
これまでNDAとは何かについて、詳しく説明しました。
この章では、NDAを締結する流れについて、詳しく説明します。
NDAを実行する流れは次の通りです。
- NDAの締結を提案する
- 契約内容の協議と原案作成
- 契約内容の確認・修正
- 秘密保持契約書の作成と調印
それでは、それぞれ詳しく解説します。
手順1.NDA(秘密保持契約)の締結を提案する
NDAを結ぶために、相手企業にNDAの締結を提案しましょう。
NDAを締結するタイミングは、秘密情報を開示する前の取引交渉段階で行うことが一般的です。
相手企業と取引を行うかどうかを交渉する際に、秘密情報の開示が必要となることが多いためです。
しかし、秘密情報を開示できないことで、お互いに満足のいく交渉ができない可能性も想定されます。
そういった場合は、ある程度、重要でないところまでを開示した後、本格検討をする前にNDAを結ぶのが理想です。
手順2.契約内容の協議と原案作成
NDAを締結するために、どのような内容にするかをお互いに協議し、その後、契約内容に双方納得ができたら、契約書の原案を作ります。
契約書の原案は、一般的に、情報を開示する側が作成するケースが多くなっています。
契約書を作成するときは、特に以下のポイントを押さえることが重要です。
- 秘密保持の目的と秘密情報の定義
- 秘密保持期間
- 秘密保持義務の対象者
- 秘密保持についての調査権限
- 秘密保持契約が万が一漏洩した場合の損害賠償の可否
- 問題が発生した際の裁判所の管轄
契約時に定める内容は、大変重要です。
そのため、3.NDAでの注意点にて後ほど詳しく解説していますので、ポイントをしっかりと押さえましょう。
手順3.契約内容の確認・修正
契約書の原案が完成したら、その内容が事前に協議した内容と違いはないかお互いに確認しましょう。
契約書で定めたものは、今後一生効力を持ってきますので、このタイミングでしっかりとリスクを消すことが重要です。
もし契約書の原案に対して相手企業から反対意見が出た場合、まずはその意見に対して修正が必要かどうかを協議しましょう。
修正する必要がない場合には、抜本的な修正を避け、お互いに納得できる妥協点を見つけることが必要です。
NDAは証憑として強い効力を発揮しますので、少しでも契約書の原案にて違和感があれば、ためらわずに解消しましょう。
手順4.秘密保持契約書の作成と調印
契約書の原案にお互いが納得できたら、実際に契約書として作成します。
契約書はお互い一部ずつ保有するように全体で二部作成し、契約当事者たちがそれぞれ調印します。
なお、NDAには、原則として秘密保持契約書に収入印紙は必要ありません。
印紙が不要である理由は、『注意点6.秘密保持契約書への印紙は不要』にて詳しく説明しています。
契約書調印が完了すれば、手続きは完了です。
3.NDA(秘密保持契約)での注意点
NDAは、企業の将来を大きく左右する重要な契約です。
しかし、実務において詳しく理解している担当者は少なく、NDAを締結しても、リスクを回避できていないケースが多いのが実状です。
そのため、ここでは、NDAを締結する際の注意点を解説します。
NDAで特に気を付けるべき注意点は、次の6点となります。
- NDAを結ぶ目的が定められているか
- 秘密情報を具体的に定めすぎない
- 秘密保持期間が定められているか
- 秘密情報漏洩時の賠償責任が具体的に定められているか
- 知的財産権・競業禁止義務の内容が適切か
- NDAに印紙は不要
- 秘密保持内容について、関係者への周知を徹底する
それでは、それぞれについて詳しく解説します。
注意点1.NDAを結ぶ目的が定められているか
NDAを締結する際には、NDAの効力が発生する範囲と秘密情報を利用できる範囲を明確にすることが重要です。
秘密保持契約は、情報を開示する側は、秘密情報を広く守るようにしたい一方で、開示を受ける側は、できるだけ秘密保持の範囲を狭くしたいと考えます。
例えば、『新商品を共同で開発するかどうかを検討するため』に情報を開示するはずが、『新商品の開発を検討するため』と明記されていた場合、開示を受ける側は、自社で新商品を開発するときに、秘密情報を利用できる可能性が生じてきます。
情報を開示する側となった場合は、使用目的を細かく定め、開示を受ける側が秘密情報を扱える範囲を明確に定めましょう。
注意点2.秘密情報を具体的に定めすぎない
NDAを締結する際には、NDAにて該当する秘密情報を具体的に定めすぎないようにすることが重要です。
例えば、開示する側が、新商品の開発のために秘密情報を提供し、NDAを締結し、新商品の具体的な仕様を秘密情報として定めたとします。
その後、開示を受けた側が新商品によく似たコンセプトであるが、仕様が異なる新商品を開発した場合、開示する側はNDAを基に異論を唱えるのは難しいです。
理由は、NDAで守られる秘密情報は、契約内で秘密情報として定義された情報のみであり、それ以外については秘密情報としてNDAで扱われないためです。
そのため、NDAを締結する際に、守りたい情報がNDAの対象となるように細かく明確に定義するか、または、1つ1つの情報を明確に定義しないようにしましょう。
例えば、「開示する当該製品に関する構造上、技術上、営業上の一切の情報は秘密情報に含まれるものとする」といった具合に、広く解釈できるよう定めるケースが多いです。
さらに、NDAを締結しない場合でも、重要情報を開示する際は、その情報が秘密情報にあたることをメールや書面に残すなど、どの情報が秘密情報なのかを証憑として残しましょう。
NDA(秘密保護契約)は秘密情報を守るために大変有効な手段ですが、守りたい情報がNDAにてしっかりと規定されるように契約書を作成することが重要です。
注意点3.秘密保持期間が適切に定められているか
NDAを締結する際には、NDAでの秘密保持期間が適切に定められていることが重要です。
秘密情報の重要性・秘密性が高ければ高いほど、その秘密保持期間は長くなります。
もしNDA上に秘密保持期間が定められていなければ、将来的に、当事者間で揉める可能性が高いです。
情報を開示する側は秘密保持期間は長いほうが好ましい一方、開示を受ける側はリスクをできる限り少なくしたいため秘密保持期間は短いほうが好ましいと考えます。
そのため、NDAを締結する際は、事前に秘密保持期間はどの程度にするのかを必ず確認しましょう。
注意点4.秘密情報漏洩時の賠償責任が具体的に定められているか
NDAを締結する際には、NDAにて秘密保持情報が漏洩した場合の賠償責任について定めることが重要です。
基本的に、NDAの中で「損害賠償義務」が規定されていますが、必ずしも、漏洩した場合に相手への損害賠償で損害を回復できるとは限りません。
損害賠償を請求するためには、請求する側が損害の金額を具体的に立証する必要があります。
しかし、秘密情報の漏洩による損害賠償額を具体的に取り決めることは非常に困難です。
お互いに水掛け論になり、交渉が上手くまとまらないケースが多いです。
そのため、事前に秘密が漏れた場合の賠償額をしっかりと定めておきましょう。
賠償額を定めることで、万が一漏洩した場合にも一定の損害額を確保することができるだけでなく、賠償額を定めること自体が相手側の秘密保護意識を高める効果も期待できます。
注意点5.知的財産権・競業禁止義務の内容が適切か
NDAを締結する際には、知的財産権・競業禁止義務の条項が適切か確認することが重要です。
NDAの主な目的は、秘密情報の目的外の利用を防ぎ、秘密情報の漏洩を防ぐことですが、知的財産権と競業禁止義務に関する条項もきわめて重要です。
そのため、NDAにて、知的財産権や競業禁止義務の条項が同時に定められることが多いです。
ここではこれらについて説明します。
#1:知的財産権
NDAを締結する際、秘密情報に基づく新たな創作等による知的財産権についても事前に定めるケースが多いです。
開示された秘密情報を基に新商品の考案や創作がされることも想定され、本規定が適切に定められていない場合、事後にトラブルになりえます。
例えば、共同で開発する新商品・サービスの場合、権利の所在を明確に定めていないと、将来的な秘密情報の利用で問題が発生してしまいます。
そのため、知的財産権について当事者間で事前にすり合わせることが重要です。
#2:競業禁止義務
NDAを締結する際、競業禁止義務についても、事前に定めるケースが多いです。
秘密情報には、企業独自のノウハウや顧客情報等が含まれるため、これらの情報を利用して同じ業界でビジネスをおこなうと、開示した側は損害や不利益を被るためです。
そこで、情報を開示する側と競合する会社・組織への就職や、競合する企業の設立または取り引きなどを禁止する場合があります。
競業避止義務を検討せずに契約を結んでしまうと、ビジネスの幅を狭めてしまう可能性があります。
競業禁止義務は、秘密情報を利用したかどうかの線引きが難しく、安易に締結してしまうと、リスクを避けて事業活動を行いにくくなる場合もあるので注意が必要です。
注意点6.秘密保持契約書への印紙は不要
NDAにおいて、秘密保持契約書に収入印紙の貼付は不要です。
秘密保持契約書が、印紙税が課せられる『印紙税法上の課税文書』に該当しないと判断できるためです。
印紙税が課税されるのは、印紙税法で定められた課税文書に限られています。この課税文書とは、次の三つのすべてに当てはまる文書をいいます。
(1) 印紙税法別表第一(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証明されるべき事項(課税事項)が記載されていること。
(2) 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
(3) 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
そのため、原則として、秘密保持契約書は(1)の文書のいずれにも該当しないため、印紙税は不要です。
ただし、秘密保持契約書の中で業務依頼や発注金額など業務委託の内容を定めていた場合、秘密保持契約書という名称であっても課税文書に該当する可能性がある点には注意が必要です。
課税文書であるかどうかは文書の名称ではなく、実際に記載されている個々の内容によって判断されるためです。
そのため、少しでも不安を感じるならば、『専門家に相談する』か、『納税地の税務署に契約書を持参し、確認してもらう』ことが確実です。
注意点7.現場レベルへの周知を徹底させる
NDAを締結する際には、契約当事者だけでなく、実際に秘密情報に触れる現場社員にも周知を徹底させることが重要です。
秘密保持契約書を実際に協議・調印するのは限られた人間のみですが、実務上は、現場社員がその秘密情報について取り扱うため、社内の不正使用や漏洩に繋がる危険性があります。
こうした事態を避けるため、契約を結んだ担当者や代理人が、NDAの内容を現場社員に説明する必要があります。
さらに、開示する側が相手企業に対して、相手企業の社員が自社に対し誓約書を結ぶことを義務付ける一文をNDAに定めることも有効な手段の1つです。
秘密情報の取り扱いは、大変繊細で重要なものですので、徹底した管理を行いましょう。
4.秘密保持契約書の雛形
これまで、NDAの締結の流れ、NDAの注意点について詳しく説明しました。
しかし、一から契約書を作るのは難しく、インターネットで検索しても多くのNDAのテンプレートが転がっており、どのフォーマットを参考にすればいいか悩むかと思います。
そこで、ここでは一例として、経済産業省が作成する企業向けの標準的なNDA(秘密保持契約書)の雛形を紹介します。
(経済産業省:秘密情報の保護ハンドブック P147~P164)参考資料2 各種契約書等の参考例
ただし、あくまでこのフォーマットは一例であり、今までお伝えした事項を参考に、自社に合ったNDAを作成しましょう。
各企業における秘密情報の管理・活用において参考となる各種契約書等の参考例を以下に例示しています。
一番重要なことは、就業規則や各種契約書等の条項の内容(書きぶり)は、個別具体的事情を踏まえた上で書き分ける必要があるということです。
すなわち、以下はあくまで参考例の一つにすぎず、実際に就業規則や情報管理規程等を策定したり、契約書等を作成したりする際には、業務の内容、実態、秘密情報の範囲や利用態様など個別具体的事情に応じ、自社にとってどのような規律を設けることが適切であるかについて十分な検討を行った上で、適宜、条項の取捨選択や内容の変更が必要です。
そのため、最終チェックとして、行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。
5.まとめ
NDAは、情報化社会の現代において大変重要な手続きです。
NDAが適切に締結できるかどうかで、企業の将来を大きく左右する可能性もあります。
一方で、NDAの内容は多岐にわたり、自社だけですべてをリスクを防ぐことは難しいです。
信頼できる専門家を見つけ、NDAを適切に遂行しましょう。