「官民ファンド」と一口に言っても沢山のファンドがありますが、その中でも「地域経済活性化支援機構(REVIC)」はウィルコムや日本航空の再生を支援し注目を浴びた「企業再生支援機構」を引き継いだ機構です。「官民ファンド」設立の目的やREVICと他の機構との違いなど詳しく解説します!
1. REVICの会社概要 |
2. 業務内容 |
3. 官民ファンド設立の目的と投資方針 |
4. REVICの投資方針 |
5. 投資実績 |
6. 企業再生の手法による違い |
7. なぜ官民ファンドが増えているか |
1、REVICの会社概要 ポイント!企業再生のノウハウを引き継ぐ官民ファンド
まずRECVICの会社概要を見てみましょう。
名称 | 株式会社地域経済活性化支援機構 Regional Economy Vitalization Corporation of Japan(略称REVIC) |
本社所在地 | 東京都千代田区大手町1丁目6番1号大手町ビル9階 |
資本金 | 131億380万円 |
株主 | 預金保険機構、農林中央金庫 |
役職員数 | 249名(2019年6月27日現在) |
子会社 | REVICキャピタル株式会社 REVICパートナーズ株式会社 株式会社日本人材機構 |
設置日 | 2009年10月14日〔株式会社企業再生支援機構〕 ※2013年3月18日に商号変更 |
監督官庁 | 内閣府 金融庁 総務省 財務省 経済産業省 |
設置期限 | 2026年3月31日(13年間) |
「官民ファンド」とは明確な定義はありませんが、一番簡単な説明は「政府と民間が共同で出資し投融資を行うファンド」と言えるでしょう。
この官民ファンドの形でREVICは2013年、前身の株式会社企業再生支援機構(ETIC)を改組する形で誕生しました。前身の企業再生支援機構は、2008年秋以降のリーマンショックによる金融経済情勢悪化等を受けて事業者の事業再生を支援することを目的に、「株式会社企業再生支援機構法」という法律を根拠に2009年10月設立され、日本航空やウィルコムなど28件の再生支援を行った機構です。
この法律が、2013年には地域経済の低迷を背景に、地域の事業再生支援に加えて地域経済の活性化に資する事業活動の支援を行うことを目的とする支援機関への改組等が盛り込まれた法改正がなされ、「株式会社地域経済活性化支援機構法」となりこれを元にREVICが設立されました。
では前身の「株式会社企業再生支援機構(ETIC)」と「株式会社地域経済活性化支援機構法(REVIC)」の違いはどのような点にあるでしょうか?
1.事業再生支援対象企業の事業規模の違い
前身のETICも当初は地方の中堅、中小企業や第3セクターの再生事業を対象としていましたが設立の翌年、法改正により第3セクターが対象から外され代わりに大企業も対象となり、日本航空やウィルコムの再生を手掛けることとなりました。現在のREVICは事業再生支援業務では地方三公社や第3セクターは基本的に対象外としているところは同じですが、資本金5億円以上従業員1千人を超える大規模企業は原則として対象外としています。
2.ファンド業務などの追加
現在のREVICに改組されたタイミングでETICで行っていた支援対象者への出資・融資・債権買取に加え、事業再生ファンドや地域活性化ファンドの運営、経営者の再チャレンジ支援、リスクマネーの供給を促進するための、民間資金の呼び水としてのファンドへの出資などの業務も追加されました。
「株式会社企業再生支援機構(ETIC)」と「株式会社産業再生機構」 同じ企業再建を目的とした公的資金を活用したファンドの違いは?
官民ファンドとしては、ETICより前に2003年小泉政権の時に不良債権問題に苦しむ大手銀行と産業界の一体再生を目的に「株式会社産業再生機構」が期限付きの株式会社として設立されました。これが日本初の官民ファンドの設立です。
株式会社産業再生機構はカネボウ、ダイエー、ミサワホームホールなど4年間に41 件の支援案件について事業再生の実施などの活動を行い、最終的に収支は黒字を計上し2007年の清算時に 433 億円を国庫に納付しています。産業再生機構の成功とこの機構に携わった民間出身者により、多くのノウハウが民間に移行され日本国内で事業再生が民間でもビジネスとして定着しました。
「株式会社産業再生機構」の清算時点で再生支援が行われなかった地域があり、地方中堅中小企業は経営困難な状況が続いているという指摘もあり「株式会社企業再生支援機構」(ETIC=REVICの前身)の設立につながりました。
2、業務内容 ポイント!地域へのノウハウ移転を目指す地域と中小企業のための機構
「地域経済活性化支援機構(REVIC)」の業務は地域の中小企業の事業再生、地域活性化を包括的に支援する内容となっています。まずは業務内容を見てみましょう。
業務 | 内容 |
人材支援
(特定専門家派遣業務) |
地域の金融機関等に専門知識と経験豊かな人材を派遣し地域経済活性化、事業再生のノウハウを提供します。短期トレーに制度を設けています。 |
人材支援
(子会社日本人材機構による経営幹部人材紹介事業) |
企業が抱える経営課題を整理した上で、金融機関と密接に連携しその解決策合致する経営幹部人材を紹介しています。 |
成長支援
(活性化ファンド業務) |
地域の経済成長を牽引する事業者等を支援するためのファンドを運営しGP(ジェネラルパートナー)として出資します。 |
成長支援
(ファンドLP出資業務) |
地域経済活性化・事業再生を支援するファンドにLP(リミテッドパートナー)として出資します。REVICが出資を行い呼び水となることで、民間によるリスクマネーの供給や地域経済活性化・事業再生支援の担い手である地域金融機関等の事業者に対する支援能力の向上も期待されます。 |
再チャレンジ支援
(特定支援業務) |
企業債務と経営者の保証債務の一体整理をはかり、経営者の再チャレンジを支援します。 |
再生支援
(事業再生ファンド業務) |
これまで地域の金融機関の事業再生ファンドが空白であった地域で、事業再生のノウハウを活かし地域の金融機関と共同でファンドを運営します。 |
再生支援
(事業再生支援業務) |
人材派遣、投融資、債権買取などの金融機関調整により有益な経営資源をもつ企業の再生を支援します。 |
これらの業務を通じて地域の活性化、事業再生を支援します。また大規模災害で被害を受けた地域にむけてREVICは災害復興支援として復興支援ファンドによる支援も行っており、2020年の新型コロナウィルス感染症による影響を受けた企業の支援はこの復興支援ファンドを元に支援していく方針です。
前項でも触れましたが、前身のETICは大企業も支援の対象に含めまていましたが、REVICは再生支援については支援対象企業について資本金などの基準を設け、基本的には大規模事業者ではなく地域の中小企業の支援を行います。
特に地域の金融機関と連携して地域の信用秩序の回復目標に事業をおこなってきましたが、今後はREVICからさらにノウハウを移転し地域金融機関を中心とした自律的な地域活性化、事業再生の仕組みの確立を目指しています。
ところで、中小企業の再生活性化支援のための組織は中小企業庁をはじめ沢山あります。それらの違いはどんなところでしょうか?
中小企業の再生支援する組織「独立行政法人中小企業基盤整備機構」、「中小企業再生支援協議会」とREVICの違いはどんな点?
経済産業省の外局として中小企業庁があります。中小企業庁で中小企業の育成、発展、経営の向上にむけての基本的方針や施策を決定・実行していますが、その中小企業庁主幹の独立行政法人が「独立行政法人中小企業基盤整備機構」(中小機構)です。
中小機構は企業の成長ステージに合わせた様々な支援を提供しており、創業・ベンチャ支援、海外展開支援、事業継承支援、、業再生支援、そして退職金制度「小規模企業共済」や中小企業の連鎖倒産を防ぐ「経営セーフティ共済」も運営しています。
中小機構の1つの事業として全国の各都道府県の商工会議所などの機関内に設置され、事業再生のアドバイスや事業再生計画の作成なども行う「中小企業再生支援協議会」です。
官民ファンドであるREVICとは、設立の経緯、予算の根拠などの違いだけでなく、対象としている中小企業の性質も異なります。
REVICは「地域経済において重要な役割をはたしている中小企業」を対象としており、窓口は基本的には全国1か所で再生支援のために金融機関等が有する債権の買取り・資金の貸付け、出資等を行います
中小企業再生支援協議会はより広い範囲の中小企業「経営上の問題を抱えているが、再生可能で事業再生意欲のある中小企業」を対象としており、全都道府県の商工会議所などを窓口に相談をすることが可能です。
中小機構もファンドへのLP出資を行っておりREVICと業務が重複しているとも言えます。ただそれぞれの組織により支援のスキームが異なるため、相互に紹介し協力して最適な支援方法を見つけることが出来るように連絡・協力を行っています。
3、官民ファンド設立の目的と投資方針 ポイント!成長支援と民間投資の「呼び水」効果
そもそも政府と民間で共同でファンドを設立する目的は、、、
本来市場原理に従って経済は発展すべきであるが、市場原理だけに委ねるとリスクの高い分野への投資は行われなくなりるためこれを防ぐため。 |
特に近年は日本は制度的文化的などの複合要因によりベンチャー企業などへのリスクマネーの供給量が欧米にくらべかなり少ない。リスクマネーの供給を増や新しい産業分野の発達をうながすため。 |
また破綻企業や経営危機にある企業の支援救済を行うだけでなく、成長支援や民間の投資を引き出すための「呼び水」となるため。 |
といえます。
ただそのためにかつての産業保護政策=「護送船団方式」のように財政を圧迫し産業の健全な成長と競争を阻んだり、民業圧迫をしないためにほとんどのファンドは設置期限が設けられており、また2013年政府によってまとめられた「官民ファンドの運営に係るガイドライン」で運用や投資の方針を定め、定期的に「閣僚会議」や「幹事会」にてファンドの状況を検証が行われています。
特に官民ファンド設立の目的に鑑み、運営投資方針として下記のような事項が挙げられていることが特徴的です。
・ 執行部を中立的な見地から監視、牽制する仕組みの役割が明確化され、導入され、機能しているか。
・ 投資プロフェッショナルの報酬は適切か(給与・賞与レベル、成功報酬、競業避止義務等の退職に関する制限の有無等)。
・ 民間資金の呼び水機能
・ 民業圧迫(民間のリスクキャピタルとの非競合の担保等)の防止や競争に与える影響の最小限化(補完性、比例(最小限)性、中立・公平性、手続透明性の原則の遵守等)
・ 投資先企業(注 3)等の経営管理(ガバナンス)態勢や各種のリスク管理(法令遵守等)態勢
・ 各ファンドの政策目的を踏まえたESG(Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス))投資とSDGs(Sustainable Development Goals))への取組の推進
・民間出資者に求める役割が明確化されているか。
4、REVICの投資方針 ポイント!地域へのノウハウ移転
前項で見た官民ファンドとしての投資方針を基本として、REVICのその政策目的に沿った投資方針として下記があげられています
・先導的な地域活性化・事業再生モデルの創造 個別事業者の再生のみならず、地域産業や企業グループ等の一体的再生や業態変革・業界再編等も視野に入れ、官民の英知を結集し成功事例を創出することで、経済の新陳代謝と活性化に資する先導的なモデルの創造に取り組むこと。 |
・地域活性化・事業再生ノウハウの蓄積と浸透 当機構が持つ多様な枠組み・機能や他の支援機関との連携等により、地域活性化・事業再生ノウハウの全国的な蓄積と浸透を図ることを通じて、地域において自律的かつ持続的に地域活性化・事業再生が行われるよう、触媒としての役割を果たすこと。 |
・専門人材の確保と育成、および地域への還流 地域活性化・事業再生に不可欠な専門人材と経営人材の確保と育成を図るとともに、地域にこうした人材を還流させる機能を果たすこと。 |
5、投資実績 ポイント!全国ほとんどの都道府県での事業実績
REVICは2019年7月までに各事業下記の実績があります。
成長支援 地域活性化ファンド(うち観光活性化) | 計 36件(12件)
観光活性化マザーファンド、地域ヘルスケア産業支援ファンド等 |
再生支援 事業再生支援 | 計 111件
2017年 宮崎カーフェリー㈱及び宮崎船舶㈲
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再生支援 再生ファンド | 4件 |
特定支援 | 102件 |
災害復興支援 復興支援ファンド | 7件
いわて復興・成長支援ファンド(LP)、ふくしま復興・成長支援ファンド(LP)、熊本地震事業再生支援ファンド、九州広域復興支援ファンド |
6.企業再生の手法による違い ポイント!「私的整理」か「法的整理か」
企業再生の手法の分類として「私的整理」と「法的整理」があります。
私的整理とは、裁判所による監督・管理を受けずに、債務者企業と債権者との協議によって債務整理を行うものであり、基本的に両者の合意の範囲内にしか効力が及ばないため、債権放棄割合などを個別的に決定することも可能です。ただ強制力を伴わないため適用が困難な場合もあります。
法的整理とは裁判所の監督の元、継続を図るために民事再生法、会社更生法に基づいて進める手続きと、会社を解体する会社法の特別清算や破産法に基づく手続きがあります。裁判所の監督の元行われるので公平性は保たれるというメリットもありますが、債権者は金融機関のみに限定されないため事業価値の毀損や風評被害が心配されるというデメリットもあります。
「REVIC」と「整理回収機構」との違いは?
事業再生の手法としては法的整理がとられるケースも多くありますが、金融機関にかわって不良債権の回収や民間企業の再生業務を担う「整理回収機構」(RCC)はこの法的整理を行う場合があり、私的整理のみを行うREVICとは異なる手法で事業再生を行います。
7.なぜ官民ファンドが増えているのか? ポイント!民間企業の投資の呼び水効果
REVICが設立された2013年以降当時の安部政権で閣議決定された「日本再興戦略」に従い、官民ファンドが多く設立されました。現在REVICの他に下記のファンドがあります。
(株)産業革新投資機構 | 経済産業省 |
(株)INCJ | 経済産業省 |
(独)中小企業基盤整備機構 | 経済産業省 |
(株)農林漁業成長産業化支援機構 | 農林水産省 |
(株)民間資金等活用事業推進機構 | 内閣府 |
官民イノベーションプログラム東北大学、東京大学、京都大学、大阪大学 | 文部科学省 |
(株)海外需要開拓支援機構 | 経済産業省 |
耐震・環境不動産形成促進事業 | 国土交通省・環境省 |
特定投資業務((株)日本政策投資銀行) | 財務省 |
(株)海外交通・都市開発事業支援機構 | 国土交通省 |
国立研究開発法人科学技術振興機構 | 文部科学省 |
(株)海外通信・放送・郵便事業支援機構 | 総務省 |
地域低炭素投資促進ファンド事業 | 環境省 |
全てのファンドについて「官民ファンドの活用推進に関する関係閣僚会議幹事会」について半期ごとにKPIなどの分析も含め検証が行われ、その検証結果が公開されています。ファンドごとの支援内容の重複や運用結果の悪化が報告されているファンドなどもあり確実な検証と早急な議論が必要ですね。
まとめ
REVICを中心に官民ファンドについて説明をしてきました。名前の似た機構や似た目的の機構もあり少し分かりにくい点もあったかもしれません。
既存企業の成長支援や新しいイノベーションを生み出し成長する企業エコシステム(企業が起業、成長、廃業などを繰り返しながらもお互いに依存しながら維持する関係)の確立のために日本の再興戦略の1つの柱として設立された官民ファンドですが、日本経済に大きな流れを作っていると同時にこのように複雑な関係にある組織が多数あり検証を続け議論する必要があることがわかると思います。
長いコラムとなりましたが最後までお付き合いいただきありがとうございました。