のれんとは?会計上と税務上での取り扱いは?具体例を用いて解説!

「のれんって何?どう計算するの?」
「M&Aとの関係ではどういう役割を果たすの?」

のれんについて調べていて、このようにお悩みの方はいらっしゃいませんか?

企業間の買収やM&Aが活発になっている今日、ニュースや業務で耳にする方も多いと思います。

のれんは資本金や売上といった他の勘定科目とは異なり、なかなかイメージが掴みづらいですよね。

そこで今回は、のれんの意義や計算方法などを、具体例を用いて徹底的に解説します。

この記事を読めば、のれんに関する疑問はなくなりますよ!

1.のれんとは?

会計における「のれん」とは、企業の超過収益力のことを指します。

超過収益力と聞いてもピンとこないと思いますので、少し具体的に考えてみましょう。

「のれん」という言葉から最初にイメージされるのは、蕎麦屋や寿司屋の店先に下がっている「暖簾」ではないでしょうか?

暖簾には大抵、その店の名前(屋号)や家紋などのシンボルマークが書かれています。

ここから転じて、「のれん」という言葉は「その店の信用力」という意味にも使われるようになりました。

全く同じ蕎麦を提供している場合であっても、名門店の暖簾さえ掲げていれば、無名店よりも高く売れます。

現代の言葉に言い換えると、「のれん」とは「企業のブランド価値」ともいえるでしょう。

ブランド価値は他の資産とは異なり、目で見えるものではありません。

しかし、M&Aなどの局面では買収価格の算出等に不可欠な要素ですので、このブランド価値を数字で表したものが「のれん」という勘定科目なのです。

2.のれんの計算方法・償却方法とは

のれんは企業の財務諸表等に日頃から数字として現れているわけではなく、企業買収などのM&Aの際に、買い手企業側が計上します。

のれんの計算方法は、以下の通りです。

のれんの計算方法
のれん=被買収企業のもつ純資産額と買収金額の差額

たとえば、A社が純資産10億円のB社を15億円で買収するケースを考えてみましょう。

この場合、A社は10億円の価値のあるB社を、5億円余分に払って購入したことになります。

A社が余分に支払ったこの5億円こそが、目に見えないB社のブランド価値、すなわちのれん代です。

このように、買い手企業の側が、売り手企業のもつ資産よりも高く評価した金額の分だけ、のれん代として評価しているということになります。

逆に、純資産10億円のB社をA社が8億円で買収した場合、この2億円のことを「負ののれん」と呼びます。

負ののれんに関しては、こちらの記事をご覧ください。

負ののれんとは?基礎的知識やのれんとの違いを具体例を用いて徹底解説

2019.09.24

(1)のれんの償却

日本会計基準では、のれんは超過収益力を表すものと考えられています。

そのため、のれんは競争の進展によってその価値が減価する費用性資産として計上されます。

すなわち、日本の会計基準に従うと、のれんも一般的な資産と同様、規則的な減価償却していくことになります。

減価償却とは、対象資産の価値が年々減少するという考え方で、例えば土地は資産価値が減少しないため減価償却の対象外となります。

日本会計基準では、のれんの償却期間は20年以内に設定しなければなりません。

また、日本会計基準ではのれんは固定資産に計上されるため、減損会計の対象となり、のれんの価値が著しく下落した場合には減損処理を行います。

減損処理とは、資産の収益性が低下したことなどの理由によりその投資額の回収が見込めなくなった場合に、一定の条件に従い、帳簿価額を減額する処理のことをいいます。

(2)国際会計基準

国際会計基準(国際財務報告基準・IFRS)では、のれんは将来の収益力によって価値が変動する資産であると考えられています。

そのため、のれんは規則的に償却するのではなく、収益性の低下による回収可能性で評価します。

国際会計基準に従うと、のれんの償却は禁止され、のれんの価値が損なわれた時に減損処理を行うことになります。

減価償却をしない以上、のれんが貸借対照表上に常に計上されたままになってしまうため、毎年減損テストを行い、のれんの価値を評価する必要があります。

国際会計基準では、将来の収益獲得を期待して投資をし、その期待通りに収益獲得できている限りはのれんが費用に計上されることはありません。

そのため、積極的にM&Aを行う企業の場合、のれんの費用化によって収益を圧迫しない国際会計基準を用いるケースも増加しています。

とはいえ、国際会計基準には後ほど述べるような減損リスクがあるため、採用する際には注意が必要です。

なお、国際会計基準においてものれんを減価償却すべきだという議論が活発になっており、今後の基準変化の動向にも注意してください。

3.のれんとM&Aとの関係は?

ここまでみてきたように、のれんは企業買収などのM&Aの際に買い手企業が計上するものです。

M&Aの実施に際しては対象企業の売買価格が最も重要なポイントのひとつであるため、買収価格に影響するのれんについてもM&Aの基礎知識として抑えておかなければなりません。

特に、のれんの取り扱いは会計上と税務上では異なるため、それぞれの違いを踏まえた上で、しっかりと区別して考える必要があります。

以下からは、M&Aにおけるのれんについて、議論が活発化している知的財産に関する問題点と、会計・税務上の取り扱いの違いについても説明します。

(1)知的財産とのれん

上に述べたように、のれんは買収金額と被買収企業の純資産額との差額として現れるため、M&Aとは深い関係をもちます。

従来、のれんを構成する要素としてはブランド価値のほかに、買収によるシナジー効果なども挙げられてきましたが、今日では知的財産も不可欠な要素となっています。

近年は会計基準の改正などもあり、知的財産を中心として無形資産がのれんとは別に財務諸表に認識されるようになりました。

しかし、知的財産のなかには評価困難なものも多く、今ものれんの構成要素として計上されるケースが多々あります。

特にIT企業など、企業価値のうち知的財産の占める割合が大きい企業をM&Aによって買収する場合、巨額なのれん代が財務諸表に計上されることになります。

そうすると、のれんの過大評価を行なってしまった場合には減損リスクを抱えてしまうことになり、企業の財政状況と経営成績に大きな影響を与え、投資家の意思決定を左右するおそれがあります。

このように、のれんを構成する要素がさらに複雑化していることから、のれん代の適正価格の決定がより困難となっていることは考慮に入れる必要があります。

(2)のれんの会計処理

M&Aにおいて、のれんの償却方法と償却年数は譲受企業が決定します。

のれんは賃借対照表と損益計算書に計上されることになりますが、会計上は無形固定資産として取り扱い、損益計算書では販売費および一般管理費の区分に表示されます。

そして、先述したとおり、日本会計基準を用いた場合には会計上ののれんは最大20年以内で定額の減価償却を計上します。

例えばのれん代が5億円の場合、20年間の償却期間を設けたならば、毎期ごとに以下の処理をする必要があります。

初年度の決算期に起こす仕訳

借方科目 貸方科目
のれん償却額 25,000,000 のれん 25,000,000

※500,000,000円 ÷ 20年 = 25,000,000円/年

借方ののれんは他の無形固定資産の償却と同様、毎年直接法によって毎期賃借対照表からマイナスされ、20年後にはゼロとなります。

なお、のれんの金額の重要性が乏しい場合には、そののれんが生じた事業年度の費用として計上することもできます。

(3)のれんの税務処理

税務上、のれんという資産分類は存在しません。

そこで通常、のれんに相当するものが「資産調整勘定」、負ののれんに相当するものが「差額負債調整勘定」として取り扱われます。

基本的にこれらは連動しますが、会計上と税務上の資産および負債には違いがあるため、両者の間にずれが生じることがあります。

例えば、前述したように会計上はのれんの償却期間が最大20年以内であるのに対して、税務上の資産調整勘定では5年の定額償却が適用されます。

また、M&A手法によっても税務上の取り扱いが異なることにも注意しなければなりません。

例えば、株式を売却した場合には資産調整勘定が発生しないため、のれん償却を損金算入することができない一方、事業譲渡ではのれんを損金算入することが可能です。

このように、税務上の処理は税制やM&Aの専門的知識が必要となるため、取り扱いには注意が必要です。

4.のれんの注意3つ

ここまでは、のれんの基本的な知識や具体的な計算方法を紹介していました。

のれんは明確に目に見える資産ではない一方、M&Aにおいては重要な役割を果たす勘定科目です。

しかし、のれんの取り扱いを誤ると、M&Aを実施したあとに致命的な損失を抱えてしまうおそれもあります。

以下からは、のれんを考えるにあたって注意したいポイントを3つ紹介します。

これらのポイントをしっかりと抑え、のれんの取り扱いに注意しましょう。

(1)正確な算出が難しい

のれんは目に見えない価値を数値化するものであるため、正確な価額を算出することが困難です。

どれほど高い価値を誇るブランドであったとしても、のれん代を乗せて買収した後すぐに倒産してしまっては、のれんに支出した投資をほとんど回収することができません。

そのため、のれんを算出するにあたっては、売り手企業の現在の価値だけではなく、その企業の経営の健全性や存続可能性等についても考慮に入れる必要があります。

実際、買い手企業がのれんを算出する際には、売り手企業のブランド力や技術力、人的資源や地理的条件、顧客網など、さまざまな要因を考慮して決定します。

このようなのれんの金額を明確に算出することはM&A市場に精通していないと難しいため、買い手がのれん代を決定する際には専門家に調査を依頼することが一般的です。

また、売り手側も買い手との交渉に備えるため、自らのれん代の算出を専門家に依頼することもあります。

(2)買収価格に影響する

のれんは企業買収などのM&Aにおいて、買取価格に大きく影響を及ぼします。

M&Aの諸手続のなかでも、特に難航するのがこの買取価格の決定・交渉です。

企業の買取価格の算定にあたっては、まずは売り手企業の資産・負債がデューデリジェンス(DD)によって調査されたのち、将来の収益予想を加えた最終的な買収価額を決定します。

その際、資産・負債は客観的合理的な価額を導くことができる一方、将来の収益予想は売り手と買い手の協議によって決定されます。

のれんなどの目に見えない資産については、より高く売りたい売り手と、少しでも安く買いたい買い手とで数値に大きな乖離が生じる場合が多く、大抵の場合は交渉が難航します。

(3)巨額の減損処理が行われることがある

日本会計基準であれ、国際会計基準であれ、のれんは減損処理の対象となる場合があります。

のれんは収益の評価次第では大きく毀損するおそれのある資産であり、ゼロになってしまうリスクさえ抱えています。

東芝は2015年に原発メーカーであるウエスチングハウス社を買収しましたが、同社は原子力事業業界の不況により経営不振に陥っていました。

同社は国際会計基準を採用していましたが、東芝はこれを逆手に取り、同社ののれん代の減損処理を避けることによって会計上は経営が安定しているように装いました。

のちに東芝は同社ののれん代の減損処理を行い、それにより巨額の減損が突然発生しました。

こうした巨額の減損処理を行うことにより、企業の財政状況と経営成績が急激に悪化し、投資家や金融機関からの評価が一挙に悪化するおそれがあります。

このように、特に国際会計基準を用いている場合には、資産規模に比べて多額ののれんを抱えていると一度に致命的な損失を計上するおそれがあります。

5.まとめ

この記事ではM&Aにおけるのれんについて、意義や計算方法、減価償却の方法などについて説明しました。

近年は国内においても中小企業やベンチャー企業間でのM&Aが活発化しており、基礎的な知識を網羅しておく必要があります。

今回紹介したのれんは、M&Aに登場するさまざまな勘定科目の中でも特に算出が困難で、取り扱いに注意すべきものです。

しかし、企業のもつ知的財産の重要性が増している今日、のれんの意義を把握しておくことは、M&Aに携わる上で必要不可欠といえるでしょう。

この記事を読んでのれんの持つ特徴や問題点をしっかりと把握し、M&Aに関する理解を深めていきましょう。

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